私は荒れた山道を、孝宏君から教わった目印を頼りに降りていく。
 頭の中に、次々と色んなことが浮かんできた。
 おばあさん、智君、崎山君、雪乃さん、美麗さん……元気かな?
 おばあさんの家、どうなっているかな?
 私は寂しくて、心細くて、涙が止まらなかった。



 二十年前か……。
 そして、また一つ気づいたことがあった。
 お母さんの名前、美佐枝っていうんだけど、結婚前の苗字はたしか……橿原のはず!
 遊園地で会った人……若い頃のお母さんだったの?
 どこか私と似ているところがあるとか、そういう会話もあったっけ。
 やっぱり……やっぱり……あれは全部、二十年前の出来事だったの?



 色々と考え事をしつつ、やっと神社前まで戻ってきたときには、すでにあたりは夜の闇に包まれつつあった。
 空には星が輝いている。
 だけど、ゆっくり星を見ている心の余裕は、私にはなかった。
 休むことなく、恋架け橋へ向かう。
 あそこで、今、孝宏君に会いたいことを口に出して言えば……願いが叶うような気もして……。
 恋架け橋の伝説は本物じゃないかな、と……なぜだか私は心から信じていた。
 根拠なんかないけど……。



 そういえば、片思い中の車掌さんのことは、いつの間にかすっかり頭から消えていた。
 頭の中はただただ、孝宏君ばかり。
 うう……車掌さん、ごめんなさい。
 でも、仕方ないんです……。
 孝宏君に本気で恋をしてしまったということで、すみませんが、許してください……。
 恋架け橋が目前に見えてきたとき、私は優しげな車掌さんの姿を思い浮かべた。
 そのとき―――。

 とんでもないことに気づいてしまった!
 車掌さんと……孝宏君……似てる……!
 兄弟?
 家族?
 そんなレベルの話ではなく……ここまで似てるって、どう考えても同じ人としか……。
 そういえば……孝宏君の趣味は……鉄道だったはず!
 そんな……!
 そんなぁ…………!

 それに気づいたとき、どうしてこんな出来事が私の身に起きたのか、おぼろげながらその可能性にも、思い当たることがあった。
 もしかして……寒蝉神社でお参りしたからじゃ?
 今日の日付の絵馬を書いて、車掌さんのことを想って……。
 でも、それなら私以外の人々も、同じ体験をすることになってもおかしくないはず。
 こんな奇跡みたいなこと、そう簡単にポンポンと起こるようには思えないし、やっぱり関係ないのかな。

 ……あ、そういえば……「あの車掌さんと私は年が離れてそうだけど、せめてもっと近い年齢だったならなぁ……。接点も作りやすいし、きっともっと話しかけやすいのに」って、つぶやいた記憶がある。
 まさか………。
 そのせいで?!

 でも今、冷静になって考えると、たとえ年齢が近かったとしても、話したことのない相手に話しかけるのって、かなり勇気が要るのは変わらない気もする。
 私、そういうの得意なほうじゃないし……。

 ま、まぁ、それはともかく……そういった私の願い事やつぶやきが本当に、今回の出来事の原因なのかどうか、確信は全くなかった。
 いくら考えても分かりそうもないことだと思ったので、「奇跡」ととらえて、そっとしておくことにした。
 そんなことを考えて走っているうちに、恋架け橋が眼前に姿を現した。