二十年前?!
 なんで……?
 どういうこと?
 頭がパニックを起こし、思考停止寸前になる。
 それでも、私は孝宏君に再び会いたい一心で、気持ちを奮い立たせて、他の紙も一枚一枚調べてみた。

 次の紙には、私たちの名前と、二十年前の七月四日の日付がある。
 その紙の上にあったのは、十九年前の七月七日の日付と孝宏君の名前だけの紙だった。
 次は十八年前の七夕の日付と孝宏君の名前、そのまた次も十七年前の七夕の日付と孝宏君の名前……これらは全て、孝宏君の筆跡だ。
 十五年前の七夕の日付の紙には、孝宏君の名前の下に「佐那ちゃん、ずっと待ってるから」と書かれていて、私は思わず泣いてしまった。
 また、それ以降、他の紙にもそれぞれ「佐那ちゃん、戻ってきて。寂しいよ」とか「いつかまた会えると、僕は信じているから」とか、孝宏君の筆跡でメッセージが添えられていて、涙なくして見ることができなかった。
 そして、一年前の七夕の日付と孝宏君の名前が書かれていた紙が、一番上に入っており、最新のもののようだった。

 私は涙を拭き、そっとそれらの紙を缶に戻した。
 二十年前って……どういうこと?
 孝宏君と私がここに来たあの日……私には昨日のことのように思い出せるあの日が、二十年前だと言うの?
 まさしく文字どおり、私には昨日のことのように、はっきりと思い出せるあの日が……?

 それに、今年の日付が書かれた紙が入っていないのも、私にとっては謎だった。
 私が何か不思議な力によって、二十年前に飛ばされていたとして……仮にもしそうだとしても……どうして、今年は孝宏君の紙が入っていないんだろう。
 孝宏君……今年はどうしたんだろう……。
 タイムスリップとか、そんな突拍子もないこと考えたくもないけど、そうとしか思えないので……私はしぶしぶ受け入れることにしたんだけど……それにしても、孝宏君が今どこでどうしているのか、心配で心配でたまらなかった。

 そんなとき、再び頭の中に、恋架け橋が浮かんだ。
 そして、あの伝説も……。
 そういえば、孝宏君が言ってたっけ。
 あの伝説に出てくる日時は、正確には、「七夕の『夜』」だってことを。
 今はようやく暗くなり始めたという感じで、まだ夜とはいえないはず。
 つまり……夜になってから行かないと、意味がないんじゃ……?!
 今から行けば、到着する頃には夜なんじゃないかな……!
 思えば、あの恋架け橋も、孝宏君と私をつなぐ貴重な手がかりのような気がする。
 私は、一目散に駆け出した。