臨海公園へ到着すると、雪乃さんに勧められて、まずは展望台へ向かうことに。
 タワーに入りエレベーターで最上階まで上がる。
 エレベーターから出た私たちの目の前には、街を一望できる大きな窓が広がっていた。
「すごい!」
 思わず私が言う。
「でしょ! あっちに双眼鏡もあるよ」
 なるほど、雪乃さんの指差す方向を見てみると、固定された双眼鏡がある。
 早速それも使って、ガラス張りの向こうに広がる街を眺めてみた。

 遠くには海が見えていて、はるか彼方に、島らしきものもちらほら散在している。
 そのすぐそばに緑があり、智君にバイクで連れてってもらったときのことを思い出した。
 智君と私があのときいたのは、あの辺かなぁ。

 建物は石ころのように小さく見えた。
「あたしたちの家は、あの辺じゃないかな」
 雪乃さんが指差す。
「なるほど」
 私はそのあたりを双眼鏡で確認した。
 どれがおばあさんの家なのか、までは分からなかったけど。

「すごく見晴らしがいいね!」
「でしょでしょ!」
 私の言葉に、雪乃さんも楽しそうに頷く。
 私たちはそこでしばらく景色を楽しんだあと、タワーを降りた。



 その後、雪乃さんが「遊歩道を歩こう」と提案してくれたので、私たちはのんびり散歩を楽しむことにした。
 まだ午前中ということもあって、気温はさほど高くなく、気持ちのよいそよ風が流れている。
 遊歩道の周辺には多くの花壇があり、色とりどりの花を楽しむことができた。
 赤、黄、青、紫、白……それに、葉っぱや草、芝生などの緑……。
 鮮やかで、思わず目を奪われる光景だった。

 また、そこかしこにベンチがたくさん設置されているおかげで、腰を下ろして風景を楽しむこともできるようだ。
 私たちも、そんなベンチのうちの一つに、おもむろに腰掛けた。

「綺麗な場所ですね」
「でしょ。海の近くっていうことで、風もちょっと潮風っぽいよ」
 雪乃さんの言う通りだった。
「じゃあ、しばらくおしゃべりでもしようよ! あっちには海釣りができるスポットや、もっと向こうには船の中に入れる場所も用意されてるんだけど、そういうの、あたし、あんまり興味なくて」
 何だか、雪乃さんらしいな。
「で、佐那ちゃんは、いつ孝ちゃんのことを好きになったの? そのへんの話が聞きたいな」
 目をキラキラさせる雪乃さん。
 ううう……そういうこと話すの、恥ずかしいんだけどな。
「でも、さっきは、『のろけ話はやめて』みたいなこと、言ってませんでしたっけ」
「それはそれ、これはこれ! 今は聞きたい気分なの! のろけ話でも何でもいいから、聞かせなしゃい!」
 おどけた様子で言う雪乃さん。
「えっと、はっきり『いつ好きになったのか』ってことは断言できないのですが、少なくとも、初めてお会いした七月一日には、すでにもう好きになっていたと思います。そして……」
 ほっぺたが熱くなるのを感じつつ、私は話し始めた。
「どんどん好きになってしまって……昨日、告白しました」
「うんうん。昨日、おばあちゃんから電話で聞いたし、昨日から付き合い始めたってのは知ってるよ。今朝、孝ちゃんも否定しなかったし。孝ちゃんのほうも、佐那ちゃんと同じ段階ですでに好きになってたんだってね。本人がそう言ってた」
「はい……」
 うう……もっと早く告白すればよかったぁ……。
 あ、でも……やっぱり、秘密の場所……あの素敵なシチュエーションで告白したほうがいいから、結果オーライかな。
 昨日のこと、私、もう一生忘れられないよ……。

「でね、佐那ちゃんも知ってると思うんだけど、孝ちゃん、クラスメイトの子に気があるって言ってたでしょ」
 美麗さんのことだろう。
「ええ、そうですね」
「そんな状況なのに、すぐに孝ちゃんと両思いになるなんて、佐那ちゃん、すごいよ!」
「は、はぁ……」
 どう答えていいか分からなかった。

「何か不思議な名前の子でしょ。孝ちゃんが好きかもって言ってた子。ツクシだっけ?」
「九十九(つくも)さん、だと思います」
「そう! そう、言いたかった!」
 イタズラっぽく笑う雪乃さん。
「孝ちゃんから見せてもらった集合写真で見たんだけど、明らかに気の強そうな子だよね。たしかに、美人なのは認めるけど」
 美麗さんは、たしかに気は強いほうのように思う。
「そうですね」
「だから、明らかに、孝ちゃんには合わないと思うから、心配してたんだよね~」
「そうだったんですか」
 従弟思いなんだなぁ。
「こんな話してごめんね。別に九十九さんの悪口を言っているわけじゃないんだよ。ただ、孝ちゃんの恋人として考えると、どうも合わないように思うんだよね~。で、今回こうして、佐那ちゃんと付き合い始めたって聞いたから、どんな子なのかなと思って、楽しみな反面、心配もしてたんだよ。そしたら、すご~~~く優しくてびっくり! あたしもここ十年以上もの間、ものすごく孝ちゃんのことが大好きだったんだけど、佐那ちゃんになら孝ちゃんを安心してお任せできるかな。孝ちゃんは、別にあたしのものでもないけどね~」
「ええっ?!」
 びっくり……。
 最後、冗談めかして、おどけた様子で言う雪乃さんだったけど……どことなく、寂しいような、切ないような表情も垣間見れた。
 やっぱり、ホームで話してたときに感じた「寂しげな様子」は、私の気のせいじゃなかったんだと思う。
 雪乃さんも孝宏君のことが好きだったなんて……。