そして、私たちは再び秘密の場所へと到着した。
 あたりの夕闇はいっそう色濃くなっている。
 夕暮れ時に、川と木々に囲まれた場所で、孝宏君と二人っきり。
 これだけでも私にとっては、素敵で胸躍るシチュエーションだった。
 これから、さらに星空まで一緒に見られるなんて。
 夢みたい。

「今日はこういうのも持ってきたよ」
 孝宏君がバッグから何かを取り出した。
 見ると、お花見などで使う、ビニールのシートのようで、すぐに広げて敷いてくれた。
「佐那ちゃん、どうぞ。座ってよ」
「ありがとう」
 私はそう言うと、さっそくその上に腰を下ろさせてもらう。
 孝宏君も隣におもむろに座った。

「そういえば、昨日、『見せたいものがある』って言ってましたよね。星空でしょうか」
「うん、それも、もちろんだけど。他にもね……」
 そう答えると、孝宏君はきょろきょろとあたりを見回した。
「まだみたいだ。もう少しだと思うけどね」
 あれ?
 星空以外にも何かあるのかな。
 本当に気になる。
「それまでは、おしゃべりでもしてようよ」
 孝宏君がそう言った。
 そして、私たちはいつもどおり、気楽なおしゃべりを楽しんだ。



 しばらくおしゃべりを続けていたら、孝宏君が周りを見回して言った。
「ちょっと暗くなってきたね」
 孝宏君の言うとおり、いつの間にかあたりの夕闇が深まり、暗さが増している。
 この情景も、これはこれで神秘的だと思った。
 目前の川のきらめきが、あたりが暗くなってきた分、より目立っているように感じる。
 また、虫の声が大きくなっているようだった。

「暗くなると、帰り道が怖いですね」
「大丈夫だよ。懐中電灯を二つ持ってきてあるし、僕は何度もここに通っているから、実は目印なしでも行き来ができるんだ」
「さすが、孝宏君」
 私は感心して言った。
「でも、帰りは十分注意しないとね。僕のそばから離れちゃダメだよ」
「はぁい」



 それからまた数十分、たわいもない雑談をしていたら、いつの間にかあたりは闇に包まれつつあった。
「ああ! ほらほら」
 私たちの背後、川と反対側の茂みを振り返って孝宏君が言う。
「佐那ちゃん、後ろを見てごらんよ」

 私が振り向くと、草むらの中を淡い光の玉が飛んでいた。
 ホタルだ!
「わぁ~綺麗!」
「今日は少ないな。もう少し待ってみようよ。もっと増えるはずだし、あたりが暗くなればなるほど、さらに綺麗に見えるはずだよ」



 あたりは急速に暗くなっていき、闇に閉ざされていく。
 そして、暗くなるにつれ、ホタルの群れが放つ光がはっきりくっきり見えてきた。
 ホタルの数も、さっきよりも増えた気がする。

「すご~い! 幻想的!」
 私は思わず、うっとりと見とれてしまいそうだった。
「じゃあ、上も見てみて」
 孝宏君の言うとおり、空を見上げると―――。

 満天の星空だった!
 街の中で見る星空よりも、ずっときれいで、星の数も多く感じられる。
 月も出ていて、優しい光が私たちに降り注ぐ。

 私は言葉を失うほど感動して、ただただ眺め続けた。
 数え切れないほどの星に彩られた空と、川辺を飛び交うホタルたちを。
 ちらりと孝宏君のほうを見ると、孝宏君もまた、黙って楽しんでいるみたいだった。

「こんな素敵な景色を見せてくれて、ありがとうね」
「喜んでもらえてよかった」
 孝宏君は嬉しそうに笑ってくれる。
 私も思わず笑顔になった。
「ここの、この景色も、僕ら二人だけの秘密にしないとね」
「孝宏君だけの秘密だったのに……私にも教えてくれて、本当にありがとう……」
 本当に私でよかったのかな。
 ふと、また美麗さんのことを思い出してしまう私。
 今日、美麗さんと孝宏君は、どんなことを話していたのかな。
 とたんに胸が苦しくなった。

「ん? もう飽きてきちゃったかな?」
 孝宏君が私の顔を見ながら聞いてくれた。
「ううん、そういうわけじゃなくて。えっと……その……大事なお話があって……」

 私はいよいよ告白することにした。
 すくっと立ち上がる私。
 急に喉がカラカラになった気がする。
 でも、ここでバッグから水筒を出していると、決心が揺らぎそうだからダメ。
 孝宏君は少し緊張した面持ちで、私の言葉の続きを静かに待ってくれているようだ。

「えっと……えっと……」
 あと一歩の勇気がなかなか出ない。
 でも意を決して―――。