夜、なんとか仕事を終えヘロヘロになりながら最寄り駅と向かう。大人気なく大輔に逆切れしてしまったことを後悔しながら駅のベンチで一休みする。体力には自信のある咲だったが、夏の長時間勤務は流石に堪え心身ともに疲労がピークにきている。大輔が言ってくれたことは当たっており、咲自身このままのペースが持つとは思っていない。
しかし、運命の出会いを知ってしまった今、その存在を守るため自分のできる最大限のことはしなければならない。電車を待っている間少しでも身体を休めるべく目を閉じる。
(帰ったら洗濯して干して、ご飯炊いてから早く寝ないと。ちょっと熱っぽいし、明日は朝早いし……)
 考え事をしているといつの間にか意識を失う。次に目を覚ますと自分がベッドに寝ていることに気がつき即座に起き上がる。窓から朝日が差し込む中、周りの状況から判断して、ここが病院だと理解できた。ベッドの横には椅子に座ったまま眠る大輔が目に入り、こうなった経緯もおおよそ察する。
(駅のベンチで疲れて寝込んだ私を小林君が助けてくれたんだ。昨日昼間に酷いこと言った私のために付き添いまで……)
 申し訳ないやら恥ずかしいやらで戸惑っていると大輔が目を覚ます。
「あ、早川さん目が覚めた? 気分はどう?」
「最悪」
「体調悪い? どこか痛む?」
「そうじゃなくて、恥ずかしいって意味で」
「ああ、そんなこと思わなくていいよ。でも、無理しちゃダメだって。医者も言ってたけど過労だってさ」
「そのくらい自分でも分かってる。分かりきった説教しないで」
 言った瞬間、自分が原因で大輔に迷惑をかけたことを思い出しバツが悪くなる。
「ごめんなさい、言い過ぎた。私のためにいろいろ言ってくれてるのに。私、ホント、余裕がないんだ……」
 自己嫌悪になり目がしらを押さえる咲に、大輔は優しく話し掛ける。
「話してくれないかな? きっと力になれると思う」
(話せるわけがない。彼氏作成キットで作った彼との関係を繋ぐためお金がいるなんて……)
「気持ちだけ頂いておくわ」
「相変わらず頑固だね。まあ、僕はずっと早川さんの味方だから、困ったらいつでも頼ってよ。頼りないって思うかもしれないけど、僕にできることもあると思うし」
 大輔の申し出に咲は黙ったまま頷く。帰り際、今日の仕事は急病により休むという報告を、既に店長に告げたと言われる。勝手なことをされたと思う反面、本当に自分の身を案じてくれているのだと感じ、改めて大輔の温かい想いを知る。
 昼過ぎになり点滴の効果もあり復調し、退院の手続きを取る。しかし、治療費等は大輔により支払われており、再度申し訳ない気持ちが湧く。店長に病欠の謝罪電話を入れてから自宅への帰路でどこから聞いたのか、茜からも身体を心配するメールが入っており感謝の言葉を返す。
 帰宅後、大人しく横になっていたものの、急遽時間が空いたことによりやることもなく暇を持て余す。病院でのしっかりした睡眠と点滴のおかげで、普段よりも元気な自分がおり今の状況に苦笑する。
(会社のみんなや小林には悪いけど、今回の件はいい静養になったかな。でも、明日からはまたハードな生活だし、あんまり無理もできないか)
 ボーっと天井を見ていると自然と尚斗の顔が浮かび、勢いに任せてメールを送る。体調不良の件は伏せ、少しの時間でも会えればと思い連絡を取ってみるが今日は残業で会えないと返信が届く。溜め息をついて諦めると、次いで茜にメールをし今夜飲もうと誘う。しかし、しっかり静養しろとお叱りのメールが入り撃沈する。病院でのお礼をと大輔にメールをしようと試みるも、アドレス交換をしてなかったことを思い出し、明日会ったらすぐにでもお礼とアドレス交換をしようと心に決めた。