月曜日、作成キットのことを尚斗に暴露してから三日後、ORコーポレーションから一通の封筒が届く。概ね想像はついていたが、中には振込用紙が入っていた。無料お試し期間終了まで後七日となり、焦っていたところでの通知で内心ホッとする。PCのステータス画面にも残り日数が表示されており、その数字が減って行く度に不安になっていた。
 尚斗との関係は継続する方向で固まり、茜にもその旨を伝えた。茜はもちろん大賛成で、使用料金が厳しいときは遠慮せず言うように言及された。気持ちは嬉しいものの、いきなり甘える訳にもいかず貯金を崩し直ぐに振込に行く。振り込んだその日のうちにステータス画面の数値はプラスされており安心する。尚斗の方にも変わりはないようで、日数制限が身体に影響したりはしないようだ。

 毎月の生活費や食費とは別に作成キットの代金月十万円は一人暮らしの咲にとって大変な出費となり、今の職場だけではいずれ借金でもしない限り関係を継続することはできない。店での残業や休日出勤、さらにはバイトの掛け持ちも視野に入れつつ咲は今後の生活を考える。
(現状の収入では一年くらいで貯金も底を付く。何かあったときのために幾らか余裕を持っておきたいし、それまでになんとかしないと。尚斗さんにはこのことは話したくないし、何よりこれ以上作成キットの話題を出したくない。傷つく彼をもう見たくないし。う~ん、最悪、夜の仕事かな……)
 求人情報誌を眺めながら咲は溜め息をつく。掛け替えのない存在となった尚斗を守るためにはどんなことでもすると心に決めた咲だが、現実にのしかかる資金難に直前しそれが難しいことだと実感する。初めてできた彼氏を失うことなぞ想像したくもないことであり、守るためなら自分の全てを犠牲にしても良いとすら考える。恋は盲目と良く聞いておりバカにしていたが、いざ自分の身になってみると生活の全てが尚斗中心の考えになっており、自身でもその変貌ぶりに驚く。

 出勤し店長にシフトの増加と残業を申請すると理由を問われたが、海外旅行の資金に充てたいと嘘をつき了承を得た。普段朝八時から夕方五時までのシフトだが、申請後は夜十時まで延長し実質開店から閉店まで勤務することになる。尚斗には心配をかけさせないように、繁忙期だと告げデートの回数を減らす。しかしながら、一週間に一回は会いたいので、休日出勤する土曜日のアフターファイブをデート日とした。

 残業シフトを敢行してから一週間後、慣れないシフトのせいで疲労が抜けず少しフラフラする。その様子に大輔は気がついており、それとなく見守る。いつものように配送された商品のチェックしていると、急激な眠気に襲われる。
(ヤバイ、昨日家事とかで三時間しか寝てないもんな。昼間の眠気は半端ないわ……)
 今にも閉じそうな重いまぶたを懸命に上げチェックをしていると、持っていた伝票とペンを横から取られる。
「え、ちょ、ちょっと、小林君?」
「早川さん、もう帰って。後は僕が引き継ぐから」
「な、なに言ってるの?」
「限界だよ、見てれば分かる。帰って休んで。倒れた方が会社に迷惑かかる」
「大丈夫よ。自分の身体は自分がよく分ってる」
「分ってないから言ってるんだよ。その検品、さっきやってたヤツだ」
 言われてハッとするが大輔の言う通りでショックを受ける。
(私としたことが、こんな凡ミスを……)
「店長には僕が上手く言っておくから、今日はもう帰った方がいい」
「ダメよ。私は働かないとダメなの!」
「早川さん、おかしいよ。彼氏ができたってときから様子が変わった。何があった?」
「貴方に話す必要ないわ」
「心配してるんだけど」
「無用よ。ほっといて」
「そんなことできない。好きな人が苦しんでいる様を間近で見てて平気でいられる程落ちぶれてない」
「苦しんでない! 私のことはほっといて!」
 顔色を変えて怒鳴る咲の声でお局軍団の数名が顔を覗かせる。大輔から伝票を取り上げると、全員の視線を無視して仕事に戻っていた。