恋愛できない女性が増えてきている、という特集をテレビでやっている。所詮はテレビの中でのことなのでヤラセの類であろうことも頭に入れつつ視聴していたが、なかなか侮れない内容もあったりする。
 意外なケースだと、自分磨きに精を出しすぎて本来の自分を見失うパターン。外見の美しさやスキルアップばかりに目が行くあまり、男が何を望んでいるのか理解していない場合が多い。女であることを意識し、それを磨くこと自体は悪くはないが、何のために誰のために磨くのか明確な目標もなく磨くのは、時間とコストを浪費するだけでむしろマイナスと言える。
 モテる女とデキる女は違い、外見だけの恋愛では長続きせず、詰まる所、良い出会いの有無よりも器量の善し悪しで魅力ある恋愛が出来るかどうかが決まってくる。
「器量がなければ恋愛諦めろってこと? アホらし。器量があってもまず出会いがないと恋愛できないし、そこから成長できることだってあるだろうに」
 好物のナンコツの唐揚げに爪楊枝を刺しながら早川咲(はやかわさき)は呟く。夏ということもあり、咲はタンクトップに短パンという出で立ちでくつろぐ。日曜日の真昼間から、梅酒を飲みつつバラエティー番組に文句をつける。親友の中川茜(なかがわあかね)はそんな咲の姿を諦めの入った遠い目で眺めていた。
 高校からの付き合いで十年近く経つこともあり、二人の間に遠慮は無く何でも言い合い、何でも報告し合う間柄となっている。茜に初めて彼氏ができたときも咲は自分のことのように喜び、別れたときは一緒に抱き合って泣いたりもした。そんな咲を茜も心から信頼しており、咲に感じていること等は素直にぶつける。
「咲の言うことも分かるけど、その女捨てたような恰好で言われても説得力に欠けるわね」
「お言葉ね。これでもスタイルには自信あるのよ?」
「はいはい、彼氏居ない歴イコール年齢の咲がよく言うわ」
「うるさいわね~、アタシだって良い人がいたら変わるよ。こういうのはね、縁なのよ縁、分かる? 縁がないとキャメロン・ディアスでも結婚できないんだから」
「はいはい、分かる分かる」
 茜はアイスコーヒーを飲みながら咲を適当にあしらう。テレビ画面には主な出会いはどこであったかのグラフが表示され、二人は真剣にそれを凝視する。
「はっ、やっぱ一位は職場か。ベタだな~、ウチの職場じゃありえんわ」
 咲は鼻で笑い唐揚げを口に放り込む。
「職場は優しいお姉さんばかりだもんね?」
「そうそう、優しいお局軍団にいつも嫌味言われてるわ。男性陣はオッサンばっかりだし」
「咲自身がだんだんオッサン化してるもんね。環境の怖さを身近に感じるわ」
「郷に入っては郷に従えというヤツです。オッサンに入ってはオッサンに従え、という諺しかり」
「もう恋愛諦めちまえ」
 茜は呆れつつ吐き捨てるように言うが、咲は半笑いで意に介さない。恋愛特集も終わり、グルメに内容が移ったところで訪問客を報せるチャイムが鳴る。ワンルームマンションということもあり、その音はそれなりに大きい。
微動だにしない咲を見て、茜は問い掛ける。
「誰か来たみたいだけど?」
「代わりに出て~」
「アンタの家だろうが」
「立つのが面倒臭い」
「君はその面倒臭いことを客の私に頼むのだな?」
「イエス、ウィーキャン」
「もう意味分らんし。全くもう……」
 唐揚げを食べる姿を見て、茜は諦めた様子で絨毯から立ち上がる。インターホン越しに会話のやり取りをし、しばらくすると小包を抱えて茜が帰ってくる。
「荷物?」
「うん」
「誰から?」
「えっと、ORコーポレーションだって」
「知らん」
「宛名は咲よ」
「咲なんて人は、ここには居ません。ここにおわすはキャメロン・ディアスです」
「はいはい、で、開けてみる? それとも捨てる?」
「金目の物なら貰う。それ以外だと茜にプレゼント」
「大概にしないと、そろそろ堪忍袋の緒が切れるよ?」
「ごめんなさい」
「開けるのね?」
「ああ~、危険物だと悪いからアタシ開ける」
 茜から三十センチ四方の小包を受け取ると、ガムテープを乱暴に引っ張り箱を開封する。中には一冊の本が入っており、表紙には『理想の彼氏作成キット』と書かれてあった。