会社へ着いてすぐにノートパソコンを開いた。いつもパソコン画面に指紋がいっぱいついている。ふかなきゃなと思いながらも、いったい何年使っているのかをいつも感じながら仕事をした。誠は建築会社の事務職員として管理する立場ではあるが、残業時間が多く、給料に見合った労働時間ではないと不満に思っていた。部下の社員はせっせと働き、仕事が終わらなくても定時に帰る。自分は残った仕事と上司への報告書を書くために残業をする。管理ある役職がついているとはいえ、働く事に少し疑問を持っていた。いつも入れてくれるコーヒーも飲み忘れ、飲む頃には冷えていた。


 ある休日子供たちが寝た後にさゆりが切り出してきた。
「ねぇ。あなた。今月出費が重なって厳しいのよ。今月はボーナス月でしょ?いくらか家に入れてくれると嬉しいんだけど。」
誠は眉毛をピクっと動かした。その話はいつも嫌な気持ちになるが、そうも言ってられない。
「今月は会社の売り上げも少ないから。そんなに出ないと思うよ。新しい社員も入ったし。会社は営業売り上げによって賞与が分配されるが、あまり見込めないよ。」
「でも、今月から一番下の子が小学校へ入学するのよ。ボーナス月に必要な物を買っておかないと、あとが厳しいわ。私もなるべくパート頑張るから。」
誠はその言葉が一番辛く思う。自分の稼ぎによって生活できない状態。出来れば妻には家の用事だけしてほしいが、頑張るとなると自分も反論出来ない。自分の無力さにいつも悲しく思う。
「分かった。さゆりにも迷惑をかけてすまない。娘のためだ。そうするよ。」
そう言って、誠は娘たちの部屋へ行き、寝る事にした。


誠は寝ようとしたが、なかなか寝れなかった。いつも考えているのはお金の事だ。
「もっと余裕のある生活が出来れば。娘たちにも好きなものをいっぱい買ってあげられるし、さゆりにもお金の事で心配かけなくてすむ。何か手はないのか…。」
色々考えたが、良い方向に結びつくものはなかった。いつも考えるだけで行動するとなるとリスクも高いし、年齢も年齢だ。現実という名のパンチがいつも自分をノックダウンさせてきた。