黒いカーテンと幾重もの鍵で外から遮断された、寝具しか置かれていない簡素(というにはあまりにも度が過ぎているが)な部屋で、あの子は暮らしている。
部屋と言ったが、あの子なりの言い方をするならば、「小屋」だ。

仕事が終わると、週に5回、僕はビニール袋を片手に小屋へと向かう。

鞄から鍵を取り出して玄関のドアを開け、家の中からドアノブと鉛製の傘立て(この為だけに買った)にかけられた2連の鎖を解き、家の中に入りリビングへの扉の鍵を開ければようやく"ただいま"。

玄関は自動的に電気が付く仕組みだが、他は手動式なため、リビングはいつも真っ暗だ。

電気を付けて部屋の隅を見ると、心底嬉しそうな彼女の顔と"おかえり"。

彼女が立ち上がろうとすると、ガシャンと金属音が響く。

「わかったから、待てったら。」

上着を脱いでビニール袋と共に床に投げ捨て、ネクタイを緩めながら彼女の元へ向かい、首輪と無理矢理設置された頑丈な銀製の棒とを繋ぐ短い鎖を解いてやる。

____俺は月に何回鍵を開けているんだろうか。

ここまでの過程で5回だが、鍵は彼方此方に施されている。勿論自分の家にも鍵はしているし…
そのおかげで歩いている間も、鞄からジャラジャラと音がして少し煩い。

毎度そんなことをぼんやりと考えながら鎖を解けば、今にも飛び付いてきそうな体勢の彼女。

「…よし。」

僕がそう言えば、目一杯の力で抱き付いてくる。
一日中座った状態の為脚が上手く立たず、ほとんどぶら下がる様な体勢だ。

一通りあやすと、離れようとしない彼女を引き剥がしビニール袋を取りに行き、再び彼女の元へ戻る。

「お腹空いたろ?今日はテレビでも有名なハンバーグを買ってきたんだ」

袋から取り出して封を切って渡すが、彼女はあまり興味を示さない。
朝も昼も食べていないのだから、普通は飛び付いてもいいと思うのだが。

「…今日も"あとで"?」

そう聞くと、彼女は頷く。
小さく溜息を吐くと、僕は軽すぎる彼女を抱えてベッドへ向かう。