男は周りを伺い、丁度レジから見えない辺りにほんの少しだけ留まった。かと思えば、その後すぐにレジにやって来て会計を済ませて帰ったのだ。

男の買った本は数年前に大ヒットを記録した、バリ甘携帯小説。やはりあのマニアックコーナーにある本に、興味がある様には見えない。

嫌な予感がする…。

私はレジを出て男が居たコーナーに向かう。

そこは日本画の画集が置かれている。整然と並べられた本棚の中に、不自然に飛び出した本がある。

怪しい。

その画集を取ろうと手をかけた。が、びっちりと詰めて並べられているのでなかなか出てこない。力を込めて引っ張り出す。

ドサッ

「あうっ…」


隣接していた数冊がまとめて落ちてしまった。

嘆きながら拾い上げ、本の表紙や中身が傷んでいないか確認する。


「良かった、大丈夫そう」


ほっとしながら最期の1冊を確認すると…本の中身がくり抜かれ、何か小さい箱が埋まっていた。


「……っ!?」


声が出そうになるのを必死で飲み込む。


「あのー、すいませーん」


レジ待ちの客の声。


「あ、はっはい」


動揺を消せないまま本を身体の後ろに隠し、レジに急いだ。