終わらない七月九日

「可哀想にねぇ…。一緒にいた子たちは助かったみたいなんだけど。」

心がひどく苦しい。私は何も返せず、体を窓の方へ向けタクシーの外を眺める。車は大通りを走っていた。
空はすっかり日が落ちて暗くなり、お店には灯りがついていた。これから飲みに行くと思われるサラリーマンや楽しげに話している学生たち。街はキラキラしていて、通り過ぎていく人には皆、この後幸せが待っているように見えた。
そこで私はふと気がついた。太ももの辺りに何か硬いものがあたっている。片足を上げてみる。

「時計?」

そこには腕時計があり、私はそれを手にとってみた。誰かの落とし物だろうか。
そして私は何を思ったのか、その腕時計を自分の左手にはめて、まじまじと眺めた。
それはシルバーの華奢な腕時計で、一見したらブレスレットに見えなくもない。秒針も問題なく動いている。私ははっと我に帰った。いけない!急いで腕時計を外そうとした。しかし金具が固くて外れない。
あれ…どうしよう…私があたふたしていると、運転手が振り返らずに言った。