結夏さんは子宮外妊娠だった。
でも隼との間に子供が出来たことを誰にも話していなかったらしい。


隼に迷惑を掛けたくなかったんだ。
私はそう判断した。


子宮外妊娠では胎児は育たない。
いずれは流れてしまう。


胎児を育てる羊水が無いからが耐えられなくなるようだ。


それがストーカーの暴行によって引き起こされたのだ。


だから卵菅破裂で、大量に出血してのたうち回ったらしい。

ボロボロになってやっと家に辿り着いた結夏さん。


母親が気付いた時は血の海だったようだ。


御両親はあまりの悲惨さに打ちひしがれた。

それでも救急車を呼んでから到着する前に、防災訓練の時に習った毛布と物干し竿でタンカを作り家の中に運んだのだ。

それは御両親の愛、そのものだった。

結夏さんを家の外に放置したままにしておきたくなかったのだ。




 彼はその光景を脳裏に描いて絶句した後、嗚咽を漏らした。

その後で、太鼓橋の隙間から結夏さんが落とされた事実を訴えたようだ。


ストーカーらしき男性に乱暴されたのが原因で死亡した結夏さん。

でもそのストーカーは警察が聴き込んでいた人とは違っていた。

目の前で反省しきりの彼が、そんな大胆な犯罪を犯すとは信じられなかったようだ。


それでも警察は、目の前にいる彼が犯人の可能性があると思ったようだ。




 早速結夏さんの体内から検出されたDNAと彼から提出を受けたものとを鑑定した。


その結果。
この事件に彼が関与していないことが判定されたようだ。




 その後の現場検証が、あの太鼓橋で行われた。

彼の供述で、其処が犯行現場だと判断されたからだった。


大勢の野次馬が見つめる中、草に覆われた線路脇の急斜面の捜索が執り行われた。


でもその中に隼の姿はなかった。

隼は何も知らずに、大学で講義を受けていたのだった。




 彼が一言も隼と結夏さんの関係を供述しなかったからだった。
だから警察は隼に事情徴収をしなかったのだ。


隼も私が結夏さんのストーカーを突き止めた事実を知らない。

私も園長先生も彼も隼を守りたかったのだ。


特に彼は、結夏さんのお腹にいた子供の命が奪われたことに胸が押し潰されていたようだった。


もし自分が結夏さんの後を付けなければ、二人が出逢っていたとしても奪われる命を宿すことはなかったのかも知れない。
そう思っていたに違いない。