僕がバイク通学したり、地元の床屋に行かない本当の訳は面倒くさいからだ。

電車からスクールバスなどへの乗り継ぎとかではない。
確かにそれもあるけれど……


ジロジロ見られるのがわずらわしいのだ。


そりゃ何処かで見た顔なんだろう。

『玲奈』の息子として一時期騒がれていたからな。

自意識過剰なのかも知れない。
だけど僕は僕として生きていたかったのだ。




 「えっ、隼君?」

フェンス越しに声を掛けてきた人物は、担任だった原島先生だった。


「あっ、原島先生。ご無沙汰しています」


「今ね園長先生しているのよ」
オバチャンが言った。


「へー、原島先生が園長先生ね。時間はどんどん流れているんですね」


「フェンス越しじゃなんだから中に入らない?」

原島先生のせっかくのお誘いだけど、僕は遠慮することにした。




 「園長先生、そろそろ私上がりますので、後のことはよろしくお願い致します」
彼女が言っていた。


「そうだったわね。中野先生早番だったわね。ごめんね隼君、又来てね」

そう言いながら原島先生は園長室に入って行った。




 (中野先生か……)

僕はボンヤリ彼女を見ていた。
気になって仕方ない。
何処の誰なのかも知りたい。
僕の心は欲望だらけになっていた。




 「あー! 又だぁ」

自転車置き場が何やら騒がしい。
どうやらパンクしたようだ。


「えっー又なの?」
一旦中に入ったに園長先生が飛び出して来た。


「翔君、又君の仕業ね」

翔君と呼ばれた子供は彼女の後ろに隠れていた。


その姿に、叔父の迎えを待っていたあの頃の自分と重ね合わせていた。




 テレビの仕事のない日は、僕は此処に預けられていた。
両親は共に忙しい人で、代わりに面倒を見てくれていたのが叔父だったのだ。


その内僕は叔父のアパートで暮らすようになったのだった。

でも本当は叔父も忙しい人だったのだ。
だから僕は大好きな原島先生にベッタリくっ付いていたんだ。
今の、翔君みたいに。


(この子もきっと寂しいんだな)
何故かそう思った。




 僕は本当は寂しがりやだったんだ。
でも迷惑を掛けてはいけないと思って気を遣っていたんだ。


孔明が言ったあの玲奈と言う女優にも、今ニューヨークにいる両親にも……


原島先生はそんな僕が心配だったのだ。
だから何時も僕を見守ってくれていたのだった。