優香と一緒に来ようと指切りをした。
その約束を破った形になった。


僕はこれから優香を迎えに保育園に行く。

優香は本当は今日遅番だった。
でも、結夏の儀式のために同僚に代わってもらっていたのだった。




 駐車場に戻ったその足で優香を迎えに行き、百観音プラス四国八十八箇所の砂を踏ませていただいた後で優香と向かい合った。


「お地蔵様に抱かれている子供は皆裸なのね」
子供達がまとわり付く地蔵菩薩を見つめながら優香が感慨深そうに言った。


近くにもう一体の地蔵菩薩が奉納されていた。
どうやら水子供養のようだ。下にはその文字が刻まれていた。




 駐車場に戻りバイクに跨がる。


「しっかり掴まっていろよ」

返事は、背中で解った。
ヘルメットが、コツンと当たったんだ。


何時だったか、優香を送った時には躊躇いがちに回された手。

今はしっかりと僕の体を掴んでいた。


僕はこの手に救われた。
結夏のことで泣いていた時に、涙を拭ってくれた。
僕の手を包み込んでくれた。


何があっても、その手で僕を放さずにいてほしい。


そんな思いを込めて僕は結夏の菩提寺を目指してアクセルを回した。




 其処には既に結夏の御両親と松田家の全員が集まってくれていた。
僕はまずお礼を言って、優香と婚約したことを打ち明けた。


「おめでとう。これで結夏もやっと成仏出来るわ。隼君のことが……」

おばさんはそう言いながら泣いていた。


「きっと結夏は僕のことを気遣ってくれていたのだと思います。実は結夏にプロポーズした時に、逃げも隠れもしないで生きて行こうと決めていたのですが……」

僕がそう言ったらおばさんは二人の手を握り締めてくれた。




 そしていよいよ、隼人之霊と書かれたお札と納経帳などが火にくべられた。
その中には、提出されなかった結夏との婚姻届けも含まれていた。
名前はおばさんに書いてもらった。
日付は結婚する予定だった結夏の誕生日にした。


勿論、優香に許可してもらった。
僕は形だけでも隼人の父親になりたかったのだ。
そうすることが、優香の子宮で隼人を育てることと繋がる。
僕はそう思っていた。
現実では出せないけど、せめて天国の結夏に届いてほしかったのだ。


(結夏……、こんなことで許してもらおうなんて思ってもいない。だけど、どうか安らかに)

僕はお焚き上げの火を見つめながら祈りを捧げていた。