結構面倒くさいし、気も遣う。
それでも帽子を目深に被りさえすれば僕だとバレ難いんだ。
お店の人も口外しないから安心出来る。


だからそこで手っ取り早く出来るスポーツ刈りにしていたんだ。


叔父さんと一緒に来た時に其処で刈ってもらったんだ。
その時、お風呂に入らなくてもカットしてもらえることを知ったんだ。


あれからずっとそのスタイルだったんだ。




 (もしかしたらこのスポーツ刈りかな?)

急いでいたはずの結夏が突然僕にしがみ付いてきた訳はそれなのかも知れない。


あの日は給料振り込みの日で、マンションから銀行に向かう途中だったんだ。


 キャッシュコーナーの前のガラスに結夏の姿が写っていた。
何だか物凄い勢いで迫ってきたって感じだった。
だから僕は何事かと思って振り向いたんだ。


結夏は一瞬立ち止まり驚いたように僕を見つめた。


だからいきなり積極的になった結夏に戸惑った。

でも結夏は僕から離れようとしなかった。


もしかしたら……
ストーカーに見せつけるためだったのではないのだろうか?


自分には恋人がいる。
幾ら後を付けても無駄だと解らせるために……




 何気に店内に設置されている鏡を見た。


(結夏、僕で良かったのか? お腹に居た子供の父親がこんな頼りない奴で……)

僕は何時になく落ち込んでいた。




 駅前の銀行を出た僕は駐輪場に向かった。

其処にバイクを止めていたからだ。


(何やってるんだ)

僕の住むマンションは目と鼻の先。
って言っても過言ではないほど近かったのだ。


(取り合えず何処かに行こうか?)

自分で自分に質問する。まるで言い訳でもするかのように。

どうやら僕は結夏のことで頭の中がいっぱいになっているようだ。




 まず向かったのは三人で良く遊んだ公園だった。


親子らしい数人が砂場にいた。


(彼処で良く遊んだな。孔明の言う通り、僕はトンネルばかり作っていたな)

懐かしそうに見ていたら睨み付けられた。

どうやら不審者に思われたようだ。


僕は子供達に向かって手を振った後、会釈してからその場を離れた。


(危ない危ない。警察にでも通報されたらヤバいよ)