九月二十六日。
デイバックに白装束と下着など詰めて、再び一泊二日のお遍路へと旅立った。
宿には寝巻き等はあるし、着て行った服で帰宅すれば良いから必要最小限の荷物にしたのだ。


女将さんから何とか一部屋確保出来たとの連絡もあって、泊まる場所で悩むことも無くなった。
だから又一番電車での出発となったのだった。


秩父にも二十四時間営業のマンガ喫茶や、ハンバーガーショップはあるようだ。
まだ一度も体験したことがないから面白そうだと思っていたのだ。
実のところ、最悪野宿でも良いと考えていた。
隼と二人だったら何処でも構わない。そう思ったからだ。




 秩父駅で降りて、栗尾行きのバスに乗った。
目指す札所三十番は終点の先を歩くこと一時間弱らしいのだ。


それなりの覚悟がないとたどり着きない坂道だと隼は言っていた。


(って言うことは、行ったことあるのかな?)

何故隼がそんなこと知っているのか疑問を持った。
もしかしたら隼独りで訪ねたのかな?
そう勘ぐった。


途中で幾つものカーブがあり、体がもっていかれる気がした。
それだけ山深いのだろうと思った。




 幾つもの停留所を過ぎ、やっと終点に到着した。
どんよりと雲っていた空は次第に明るくなっていた。


隼の言う通りなら、いよいよ覚悟の山登り? のはずだ。
私は金剛杖をしっかり握り締めながら隼の背中を追った。


「そんなに力まなくていいよ。坂道はまだ先だと思うから」

隼が笑いながら言った。




 案内板を右に曲がった先を又右に曲がった。
でも隼はそのまま進んでいた。


「此方でしょ」
私は慌てて声を掛けた。
確かに案内板は私の場所を示していた。


「そっちは違うよ。優香も同じ間違いするんだな」

又、可笑しなことを隼は言った。




 隼の言う通りに歩いて行く。
その先にあったのは白い山だった。


「水子地蔵尊だよ。結夏のお母さんが言った水子地蔵はきっと此処だと思う。一番だと思っていたから驚いたよ」


(驚いたよ? 何で過去形なんだ? やっぱり独りで来たのかな?)

そう感じつつ、隼が話してくれるまで待とうって思っていた。




 水子地蔵尊をまともに見られない隼と私。

その全てが隼人君だと思えたからだ。


私は早足で、此処から立ち去りたかったのだ。

でも隼は時々水子地蔵に目をやる。


『隼人!!』
って叫びたいに決まっている。