恐縮しながらも堂々と進む。
半ば開き直りって心境だった。

女将さんの言う通り、遠慮はいらないのだ。


工場の敷地を抜けて暫く行くと、太子堂と書かれた建物があった。
その横には琴平神社。
真ん中にある道を進む。
するとスローな階段が現れた。

さっき、工場の受付の人に聞いてみたら此処まではバイクで入って来られるそうだ。
やはり心配だったから、本当に工場の中の道に入っても良いのか一応聞いてみたんだ。
ついでに、バイクのことも……




 その先にいよいよ覚悟のいる、三百の石段が控えていた。


それを登りきると見えて来るのが懸涯造りの岩井堂だ。

秩父の清水の舞台とうたわれた場所だそうだ。
此処は元々は円融寺の奥の院ではなくて、れっきとした札所だったそうだ。




 秩父の清水の舞台とは良く言った。
とは思いつつ、スケールは段違いだった。


懸崖造りは埼玉県には四箇所あり、秩父地方には三寺院があるそうだ。


この岩井堂と明日行くつもりの三十二番札所法性寺だ。


もう一つは何時か訪ねてみたいと思っている太陽寺だ。

此処は関東の女人高野と呼ばれていて、宿坊として女性に人気のようだ。


残る一つは埼玉のほぼ中央に位置する吉見町にある岩室観音だそうだ。


吉見百穴入口付近の山肌にあり、岩を見事に活かした造りは一見の価値がある。
こじんまりとしていているけど……




 実はバイクで結夏と良く訪れていたんだ。

願い事を叶えてくれると言う、この上の百観音の砂を踏むために……

僕の願い事は結夏との結婚だった。

勿論、結夏も同じ気持ちだと信じていた。
でももしかしたら結夏はストーカーから身を守ってほしいと願っていたのかも知れない。


下は柱で支えられていて左右に四国八十八観音を模したと言われる石仏がある。

胎内潜りと書かれた急な階段を上って行くと、それがある。

結夏はお花見の時に家族で訪れて、此処を知ったそうだ。
それ以来、結夏のお気に入りスポットとなったのだった。


だから、どうしても僕と訪れたかったのだ。




 僕は岩井堂のその懸崖造りの下に降りて舞台を見上げてみた。


(あれっ!?)

何かが気になりすぐに崖をよじ登り、その舞台上がった。


二十六番に無かった探し物が其処に無造作に置かれていた。

それが秩父観音霊験記だった。


「やっと見つけたね。やはりあの金縛りの絵ではなかったね」
優香は嬉しそうだった。