2人でお茶を飲みながら過ごしているとインターホンが2回続けて鳴った…
あ、この鳴らし方

「お母さんだ」

玄関のドアを開けたらお母さんとお父さんが“ハロー♪”と言いながら中に入ってきた。
お母さんは家に来る時は必ず紅茶を持ってきてくれる。
お母さんは大好きな紅茶でカフェを経営してる。
お父さんは建築家で、ときどき博紀のデザインを形にしてくれたりしてる。
博紀は大学生の頃にデザインを勉強して、今は家、カフェ、レストランのデザインを中心に仕事してる。
お母さんもお父さんも博紀を気に入ってくれていて、私は彼との婚約が決まった。

「ふたりに見せたいものがあるの♪」

ニコニコしながらお母さんはバッグの中から取り出した1枚の紙…

“1年を船の上で過ごしてみませんか?”

そんな口説き文句が書かれた船上の旅…
お母さんはお父さんを説得して、そして今度は私を説得しに来た。

「いいじゃん!行こうよ!」
「行こうよって、仕事は?」

博紀はデザインは船の上でも出来るって言うし、写真も最高に綺麗な夕焼けが撮れるぞ、なんて言うし…

「大丈夫よー百合子さんならオッケーしてくれるわよ」

百合子さんっていうのは私の会社の女社長。
お母さんは博紀のお母さんにまで電話で話を持ちかけていた。
博紀のお母さんはフラワーショップを経営、お父さんは博紀と同じデザイナー、
博紀のお父さんとお母さんも私の両親と同じで自由気ままで、とても豪快なご両親。
私は百合子さんに事情を説明したら…

『あらーロマンチックやなーかまへんよ、行ってき』

と、簡単にオッケーがもらえた。
結局押しの強い両親に説得されて、私は1年の船の上での旅に
行く事になった。
突然訪れた1年間の非日常…
この非日常な出来事に、私と博紀の間に風が入り込んできた…。