そう、このままでいいの。
「あの……!さっきはありがとう」
放課後、掃除のゴミ捨てから戻って来た桐谷に声をかけた。
クラスメイトは帰ったり部活に行ってしまい、残っているのは数人のみ。
まだお礼を言ってなかったことを思い出して、教室に戻って来るのを待ち伏せしていた。
「さっきって……?」
「数学の時、答えを見せてくれたでしょ?あれ、助かった。ありがとう」
桐谷にお礼を言うのは嫌だけど。
でも、助かったのは事実。
素直なあたしがそんなに珍しかったのか、ポカンとしながら目をパチクリさせる桐谷。
なんて失礼な奴。
あたしだって、ちゃんとお礼くらい言えるんですー!
そう言ってやりたい気持ちを抑えて、まっすぐにその瞳を見つめる。
だけど桐谷はバツが悪そうに視線を泳がせ始めた。
そしてスッと視線をそらすと、無愛想にボソッと呟いた。
「……別に」
それだけ言うと、桐谷はもう話しかけるなという雰囲気をまとって、カバンを掴んだ。
「じゃあな」
「え?あ……うん。またね」
意外にも桐谷からそう言われ、とっさにそう返す。
すれ違う時に見えた桐谷の頬が赤いような気がしたのは、きっとあたしの見間違い。
さて、あたしも帰るとするか。
階段を降りて玄関まで来たところで、隅っこの方でつるむ騒がしい男子の集団を見つけた。
げっ!
桐谷!
色とりどりの頭髪をした目立つ不良がたくさんいる桐谷率いるグループだ。
関わらないようにスルーするのが一番だよね。
「なつ!」
靴に履き替えようとしたところで、透き通るようなしんちゃんの声が聞こえて顔を上げた。
「今帰り?」
しんちゃんはあたしの側まで来ると、ニコッと笑って顔を覗き込んで来る。



