「なにしてんだよ、んなとこで」


「べ、べつに。友達に英和辞典貸してただけだし」


「ふーん。さっきの男が友達、ね」


意味深にそんなことを言った桐谷は、さっきの場面をしっかり見ていたらしい。


だったら、なにしてるかだなんて聞かないでよ。


性格悪いなぁ。


「桐谷には関係ないでしょ。ほっといてよ」


負けてられないと思って、強気にその顔を見上げる。


だけど、すぐにうっと言葉に詰まった。


桐谷って……本当に整った顔をしてる。


きめ細かいツヤツヤの肌に、染めてるハズなのに傷んでいなさそうなミルクティー色の髪の毛。


すべてを見透かすような冷静な瞳。


その目に見つめられると、なぜだかうまく息ができなくて。


まるで金縛りにでもあったかのように、全身が固まる。



「どけよな」


「はいはい、ごめんなさいね」



そう言ってサッと隅の方によけると、桐谷はスタスタとあたしの横を通り過ぎて行った。


それにしても、言い方ってもんがあるでしょ?


やっぱり桐谷は自己中でワガママな奴だ。


ふんだ、もう知らないもんね。


教科書忘れても見せてやらないんだからっ。