「……っ、咲都?」
「兵藤くん、何か隠し事してない?」
「えっ、ま、まさか! そんなことないって」
思いもよらぬ言葉にどもってしまうが、うっかり『咲都こそ……っ!』と言ってしまいそうになるのをどうにか堪える。
「本当に?」
「本当だって! 俺、咲都に言えないことなんて何も無いから!」
自分には咲都だけ。
咲都以上に大切なものなんて無いし、咲都以上に必要なものも欲しいものも無い。
そういった気持ちを込めて、晶は咲都の手を強く握り締めた。
「そう? ならいいんだ」
「え?」
にっこりと笑みを見せた咲都はするりと晶の手から逃れるとパタパタとコンロの前に戻っていった。
鼻歌まじりに夕食の準備を再開させる咲都に、晶は声を掛けることが出来なくなっていた。
自分を信じていてくれる咲都を疑うなんて。
ほんの少しでも咲都を疑った自分が情けなくて。
それでもまだ咲都に対しての疑念が晴れない自分に嫌気がさしていた。


