「なぁ、咲都。さっき神宮くんと……」
「──あ、神宮くんがね、彰那の期末対策したいんだって。兵藤くんも手伝ってね」
そんな風に言われてしまえば、さっきの二人の会話を怪しく思っていたなんて間違っても言えない。
「あ、ああ、うん」
適当に返事をしたのがバレたのだろうか。
こちらをじっと見詰める咲都の視線に、晶の心臓が無駄に煩く脈打つ。
「本当に手伝ってくれるの?」
「……えっ?」
「兵藤くんいつも面倒だって言うでしょ」
「いや、その……もう期末だろ? 期末で赤取ったら冬休みヤバいもんな。高槻もそんなこと言ってたし」
「そうなんだよ。冬休み返上で補習なんだって。さすがに大晦日とお正月は休みだけど、それじゃどこにも行けないしね」
「そ、そうだよな」
咲都の口振りからして、春親と二人きりでどこかに行こうとしているわけではなさそうだ。
だとしたら、急浮上した『デキてる説』はただの勘違い……だと思いたい。
思いたいが、なぜ二人きりの時には名前で呼びあっていたのに今は名字なのか。
咲都を疑うなんて、と思いつつも気になってしまう。
そして、こんな時に限って思い出してしまう。
先刻、彰那から聞いた話──最近、神宮が咲都のことばかり聞いてくる──を。
そうなると、咲都が夕食の準備をしている、という毎日の何気ない幸せな時間でさえ、会話に詰まってしまう。
ちらちらと咲都に視線を送りつつ、どう声を掛けようか迷っていると、料理していたはずの咲都がソファに座る晶の隣にやってきた。


