「──じゃあ、俺は帰るね。高槻、借りていくよ」
言って、春親は彰那の手を引くと普段余り見せない柔らかな笑顔を浮かべて出ていった。
春親の笑顔に彰那が釘付けになっているのを晶が見過ごす筈もなく──
「兵藤くん?」
思わず、にや、と口角が上がってしまったのを咲都に見られ、慌てて両手を振った。
「今のは高槻を見て笑ったんだ」
「彰那を?」
「あいつも神宮くんの前じゃだらしないよな」
「人の事言えないでしょ」
苦笑いの咲都に、晶は柔らかな笑みを返す。
「咲都が可愛すぎるのがいけないんだーっ」
「はいはい。夕ご飯の用意するから離れてね」
ぎゅ、と咲都を抱き締めたものの、冷ややかに手を外されてしまった。
そんな風にあしらわれるのはいつもの事だが、さっきの春親との会話を思い出してしまうと自分が拒絶されているように思えてしまう。
何気無い仕草にも、敏感になってしまう。


