何分こうしていただろう。
あれだけ輝いていた夕日も沈んで、外には薄暗さが広がる。


やっと泣き止んだ美帆をもう一度強く抱きしめて体を離す。









『今日はもう帰りなよ。』








『 ........帰りたくない。』








『だって、お母さんも心配しちゃうし、危ないから。俺、ロビーまで送るから。』


健康で力強い男なら美帆を家まで送り届けられるに。俺には出来ない。あぁ、情けない。




ずっと前から積み重なった悲しみが溢れ出してきて泣きそうになる。












『わがままいってごめんね。帰ろう。』
美帆が笑顔を作っていう。





その笑顔をふりほどくように、
美帆の手を引き外にでて、廊下を歩いていく。











『手術まであと何日?』
悲しそうな顔で聞いてくる。





10日だよ。なるべく自然に答える。
自分でいって思う。あと10日しかないのか。10日ってあまりにも短すぎる。









『そっか。10日なんだね。』
笑っていう美帆をみてまた胸が張り裂けそうになる。
無理させてごめん。美帆。
..................苦しめてごめん。












こうしているうちにすぐにロビーにつく。


『ここまででいーよ。ありがとね。』








健康で力強いおとこなら、美帆を家まで送り届けるだろう。俺はこんな体だから、美帆のそばにずっといることも出来ない。





俺の表情に気づいたのか優しく抱きしめてくる。





『ゆうは、なんにも悪くないじゃん。
そんなに1人で抱え込むことないよ。命のことは軽々しく言えないと思うけど....
美帆はゆうのこと、世界で一番好きだよ。だぁいすき。だから、大丈夫。』








また美帆に見透かされてる気がする。
俺のボロボロになった心に柔らかく入ってくる。心地よい.....。







嬉しすぎて言葉が出ない。
『俺も大好き。』
やっとの思いで言葉を絞り出す。







美帆が体を離す。







『じゃあね。帰るから、また明日。』














また明日、、、、何度も繰り返す。
俺にも明日がくるのだろうか。
怖くて怖くて仕方が無い。そして、さみしくて仕方が無い。



それでも笑顔で返す。
『ばいばい。また明日ね、待ってる。』







笑顔で手を振りながら帰っていく美帆。







ふわふわとなびく髪も、
笑顔も、シュッとした後ろ姿も。
美帆の全部が愛しい。
それでも、美帆を苦しめて、無理をさせてる........辛い。














ねぇ、美帆。もう見えなくなった後ろ姿に語りかける。
『幸せ?俺は幸せだよ。美帆に出逢って
恋におちて、たくさん愛をもらったよ。
だから、だから、あと10日、美帆を愛しぬくよ......命をかけて。』