呆然と立ち尽くす。

紅が…負けた。

いや、負けたどころの騒ぎではない。

あれ程の深手を負わされた挙句、底すら見えぬ谷底へと転落したのだ。

或いは…もう…。

そこまで考えて、私は頭を横に振った。

…認める訳にはいかなかった。

その先を、考える訳にはいかなかった。

考えてしまえばもう、私は立っていられなくなる。

事実。

「……」

心のどこかで受け入れ難い現実を受け入れ始めているのだろう。

私の頬を涙が伝い始めていた。

それでも気丈に現実を否定する。

違う、死んでいない。

敗北は喫したかもしれない。

だがあの男は風だ。

女神国に、東方同盟に、そしてゆくゆくは、この地に加護をもたらすであろう風だ。

風は死なぬ。

風は永遠なのだ。

そんな理屈に必死にしがみつく。

…そんな私を嘲笑うかのように。

「さて、賭けは俺の勝ちだ」

皇帝は吊り橋から自陣へと戻り、私に言った。

「紅は死んだ。俺が勝つ事が開戦の狼煙だったな?」