長居すると体によくない。

私はテラスに背を向ける。

と。

「乙女」

北風に赤い外套をはためかせながら、紅が私を呼び止めた。

「ならば俺の言葉を覚えているか?」

「…?」

何の事だろうと思案していると。

「お前は身を犠牲にして兵や民衆を救え。そのお前は俺が救ってやる」

彼は確かに聞き覚えのある言葉を口にした。

…その言葉、気恥ずかしかった反面、じんわりと温かいものが胸にこみ上げてきたのを覚えている。

「理想を謳え。綺麗事を口にしろ。それで兵を死地に導く事を…敵兵を斬る事を気に病むのならば、その汚れ役は俺が引き受けてやる」

真剣な眼差しで私を見つめる紅。

…ああ…やはりこの男はこの女神国に必要な加護の風だ。

そして何より、私を包み込んでくれる穏やかな風なのだ。

「大丈夫だ」

私は気取る事なく、満面の笑みを浮かべた。

「貴方がそう言ってくれるから、私は躊躇う事なく戦乙女として、戦場を舞う事ができる」

「そうか」

やや苦笑して。

「ならば俺は今のうちに休んでおく事にしよう。この分だと帝国との戦の際には馬車馬のようにこき使われる事になりそうだ」

いつもの皮肉を口にして、紅は私より先にテラスを後にした。