「帰っちゃ駄目だよ」
彼の優しい声に涙が出そうになる。
私とてあの家には帰りたくない。
けれど帰らなければいけない。
あそこが本来私のいるべき場所なのだから。
「……帰るから、離して」
言うと、いとも簡単に自身の身体に回された腕は緩む。
腕から抜け出すと途端に彼の温もりが消えた。
寒さを感じた私はすぐに洋服を身に纏う。
その時、不意に彼をみた。
彼を見た途端に胸が苦しくなる。
そしてどうしようもない恐怖に襲われた。
立ち上がった彼は昨日と同じ、冷めた目で私を見つめていた。
「離れるなんて許さないよ」
少女漫画によくあるこの台詞。
こんな言葉に主人公の彼女達はときめいていたのか。
今、私は恐怖しか感じていない。
恐怖で鼓動が早まり、冷や汗が頬を伝う。
逃げろ。
誰かがそう言った気がした。


