スマートフォンを耳につけたまま呆然とする。
彼の唇が首を這う感触がするがそれすらも気にならない程に。
早く帰らなければ行けない。
しかし意思とは裏腹に体は帰りたくない と、そう言わんばかりにその場から離れることを許さない。
立とうと思うも膝が崩れて再びその場に座り込む。


「か、えら……なきゃ」


潤いを含んだ声は彼の耳にまで届いただろう。
彼の腕が後ろから私の体に回った。
私に安心を与える行為でないことはわかっていた。
“帰らないで、寂しい”
彼の考えはそんなところだろう。
だから私が動けぬようにその場に固定した。