彼の心を、私で溢れさせたい。
この寂しい人に、温もりを与えたい。
いつしかそんな欲が生まれていた。

泥の中から立ち上がり、傘をひろってもう一度彼に向き直る。
もう彼は私を睨まない。
虚ろな瞳が私を見ていた。


「夏目君に分けてあげる」


泥だらけの手を差し伸べれば、予想外にも彼はその手を取った。