『あの子』との出会いは約半年前。

それは、中学に入ってからまともに『好きな人』ができなかった私が、少し変化したキッカケとなった。

私の名前は七海 美桜(ななみ みお)。光ヶ丘中学3年の陸上部だ。



「ねー美桜ちゃん!!陸上部に一ノ瀬くんっていうイケメンいないー?」

「うわっっっ!!?」

いきなり抱きついて大声で話しかけてきたのは、よくわからない性格だがそれなりに仲の良い唯衣(ゆい)だった。

びっくりしながら返事をする。

「えっと…一ノ瀬くん?そんな人いたかなぁ?」

「まあまだ入学してきたばっかりだしね〜♪」

あーだからか〜…って!!

「え!?1年生!!?」

「そうそう♡クールで、背も高くて、もうちょーーーイケメン♡♡今日から部活動体験だし来るんじゃない?」

「あ、そーだった!今日探してみるね〜」

「うん!一人だけ輝いてるから絶対すぐわかる!!♡」

「お、おっけー…w」

ふーん。年下とか興味ないんだと思ってた。どんな子かな〜

…あ、唯衣の趣味ちょっとズレてるしな。あんまり期待しないでおこう。うん。



そして全ての授業が終わり、放課後になった。

「美桜ちゃーん!部活いこ!」

話しかけてきたのは唯一の同学年の女子部員、真希(まき)だった。

「はいはーい!」

着替えてグラウンドに出る。

「おー!結構来てない?体験」

「うわ、ほんとだ!珍しい」

ここでふと唯衣が言っていた『一ノ瀬くん』を思い出した。

「あ、そういえば唯衣が一ノ瀬くんっていうイケメンが陸上部の1年生にいるって言ってたよ」

「まじか!…でもさ、いる?それっぽいの」

辺りを見回してみる。確かにそれっぽいのはいないような…

「イケメンはいない気がする」

「断言すんなよww 名前呼んでみる?」

「呼んでみるか!」

「おっけ!せーの…」

「「一ノ瀬くーん!!」」

数人がチラチラとこっちを見てきた。

でも返事はない。

そのあとも何回か呼んでみたが返事は返ってこなかった。

「やっぱいないっぽいな」

「陸上部やめたのかな〜?…って!あの子!」

周りの子より頭がぴょこっと出ていた子の体操服の胸に『一ノ瀬』と刺繍がされていた。

「あーーー!!一ノ瀬くんこの子じゃん!」

「やっぱり!?」

一ノ瀬くんは驚きと照れが混じった表情をしていた。

てかこれ…かっこいい?のか??

少なくとも顔はイケメンの部類じゃないと思うんだけど。。。

そんなことを考えていると

「陸上部入ってね!」

真希が声をかけた。

「……はじめからそのつもりです」

顔を赤くして、俯いたまま小さな声で言った。

なんだこの子。コミュ症かなにかか。

そんな事を思いながら、私は

「そっか!よかった〜」

このひとことだけ声をかけた。