「そろそろ、暗いから帰ろうか?」


空くんは窓を指差してこちらを見た


「本当だ、…まっくら」


いつの間に、こんなにまっくらになったんだろう


話してると、あっという間に時間が
過ぎていた


楽しい時間はあっという間に過ぎる
それって、こういうことなんだ


ゆっくり2人で立ち上がって
並んで図書室を出る


…ちゃんと、自分で貼った
“CLOSE”の紙も剥がしておく


寒いね、なんて他愛もない会話が
楽しくてたまらない


廊下を歩いて、お互いの教室に
荷物を取りに行って


昇降口へと、歩いた


湊と優里の部室に
『先に帰るね』のメモを貼り付けて


帰る準備はバッチリ


寒い冬の空気がピリピリして
顔が痛い


そんなわたしの顔にふわりと


マフラーがまかれた


「あ、れ?これって…」


「返すよ、ないと伊織、寒いだろ?」


あの時はありがとう、と
笑ってくるくると
巻かれていくマフラー


クリスマスの時に、
空くんにマフラー、貸してたっけ


それよりも…

あれ、マフラーって
こんなにあったかいものだったっけ?


冬なのになぁ…


“空くんと一緒にいると
なんでもあったかくって
キラキラして見える”



なんて


認めるのはなんだか恥ずかしくって
くすぐったくって


…どうしよう、顔がにやけてしまいそう


そして、自然に手が繋がれた


”自然な”ところが
また、胸がきゅんとしてしまう







「空くん、寒くない?」


マフラーも、何もしていない空くんは
鼻が赤くなってて寒そうだった


寒い夜だった


「寒くない寒くない」


「本当に…?」


「うん、充分。
手、あったかいから」


そう言って、笑いながら
繋がれた手を、空くんは揺らした


「…うん、あったかいね」





その後もずっと、
私の家に着くまで
2人で話しながら歩いた


空くんに、声でたくさん伝えられるのが嬉しくて


夢中で話してた気がする


相変わらず、
風は凍えるような寒さだったけど


繋いだ手だけは
ずっとあったかかった