「伊織はまだ頑張ってるんだよね」
湊がわたしから離れながら言った
「だから、わたしもまだ頑張ろうと思う!」
どういう意味か分からなくて、湊の顔を見つめる
目が潤んでて、美人な顔がさらに魅力的に見えた
「好きな人にね、彼女がいたんだ。
もうそれはそれは綺麗な。
勝てっこないって思うけど、でも諦めない!
だって、大好きなんだから。
迷惑かも知れないけれど、とことん好きなだけ、好きでいさせてもらう!」
吹っ切れた様子で、湊が笑った
久しぶりに見た笑顔だった
それはもう、まぶしい笑顔
湊は全力で恋をしてる
「湊なら、きっと大丈夫だよ」
こんな可愛い子、ほっとくなんて損だ
李亜さんのことを知っている手前、こんなこと言っていいのかななんて思うけど
きっと、彼方先輩も振り向いてくれる
そう思えた
「だからね、あのさ、…グロス!
あげるって言ったけど…」
「うん、返すね」
やっぱりあのグロスは大切なものだったんだ
一回手放したのに、もう一度取り返そうとするくらいに
「あ、…カバンの中だ」
教室に、すべての荷物を置いてきていたのを忘れてた
「伊織、投げるよ!」
「え?…うわ!」
優里が自分のカバンとわたしのカバンを持って、こっちに歩いてきていた
優里は、わたしのカバンからポーチを取り出してこっちに投げた
なんとか受け止めて、中からピンクのグロスを出して、手渡す
「…ありがと。伊織」
湊は大事そうにグロスを握った
「…好きな人がね、ピンク似合うって言ってくれたんだ」
なんて言って笑う湊はこちらが照れてしまうくらいに可愛かった
湊はきっと一歩、踏み出せた
湊の笑顔を見て、そう思った

