「黒曜……?」


「つぐも……」



ふわりとわたしの体を包んだ、低い体温と薔薇の香り。


まるでガラス細工を扱うかのような丁寧な抱擁。


たったそれだけなのに、わたしの脳は奥まで甘く痺れるような感覚に陥り、思考が鈍くなる。



「キミはいつもボクのことを想ってはくれてるけれど。
……いや、だからこそ、寂しいや悲しいという心は打ち明けてくれないのだね」



耳元で囁かれた言葉には、寂しげな響きが含まれているような気がした。


顔は見えないけれど、きっと彼は目を閉じて、少し眉を下げているのだろう。



「つぐも…つぐも……」



その名前の存在を確かめるように、黒曜はわたしの名前を呼ぶ。



「少しの時間キミと離れているだけでもボクは寂しくて堪らないよ。
つぐもがいない時間が、とても空虚に感じるんだ……」



恐らく、情熱的であろう彼の告白。


それはまるで毒のようにわたしの体を侵していく。