「今日からお前を陽炎と名乗れ。よいな?」 店主様は言った。 佐野琴葉… 私はこの名前を捨て、陽炎になる。 「はい。」 静かに、頭を下げた。 店主の部屋を出たあと、自分の部屋に入る。 髪の形を整え簪(かんざし)を指す。 鏡の中の自分を見て呟いた。 「私の一時じゃなく、一生を買って…。」 その言葉は夕暮れの騒がしさに飲まれて消えた。