「風の丘ホーム…あっここか。今度はどれくらいいれるかな…」

目の前にある一軒家を見て、思わず下を向く。
だって、男の人と目が合ったんだもん…
よし、逃げよう!
…と思って右を回るともうその人はいた。

「君が、今日から一緒に暮らす野口悠李ちゃんだね?」

もう、頷くしかない。

「予定より早く着いたね。僕は、職員の吉野ゆきとです。ゆきと先生って呼んでいいからね。あれ?向こうの先生は?もしかして独りで来さされた?」

「…はい。」

「そっか。大変だったね。お疲れ様」

ゆきと先生はそう言うと、頭を撫でてくれた。
私、頭を撫でられるの初めてでびっくりしちゃった。
そしたらゆきと先生は笑ってた。

「よし、とりあえず中に入ろうか。ここの家のこととか話したり他の先生のこと紹介したりやることいっぱいあるからね。」

ゆきと先生はそう言うと、私を中に促した。


中は普通の家みたいで、とても施設には見えなかった。

「とりあえず、案内しようかな。まず、一階はリビング…ご飯食べるところね。それと部屋が、三つ。僕達職員の仕事部屋と眠るところ。そして反省室。二階は部屋が六つ。悠李ちゃんやみんなの部屋が五つと学習室…まぁこんな感じかな?何か聞きたいことある?」

なんとなく分かったけど…部屋の数、少ないような…

「部屋が少ないのは…」

「あぁ、それは僕達が少人数に絞ってるから。子供部屋は五つあるけど、実際ここの定員は四人。残りの一つは談話室になってるよ。」

「なんで少ない人数に?」

四人ってすごく少ないような…

「それは僕達職員が子供達一人一人と向き合うため。そのために担当も決めてないよ。やっぱり前いたところとはかなり違うでしょ?」

「はい…あと、反省室って?前いたところには無かった。」

なんとなく、名前の意味は分かるけど部屋を作る必要ってあるのかな…

「反省室はね、簡単に言うと悪いことしたら入る部屋。その詳しい説明は仕事部屋でここのこと話すときに一緒にするよ。こっちおいで」


ゆきと先生に言われるまま、仕事部屋に入った。


仕事部屋にはゆきと先生以外の大人の人が数人いた。

「じゃあまず、職員の紹介。ここの職員は合わせて五人。僕みたいな子供達の世話をする人が四人とカウンセラーが一人。ご飯や洗濯物とかは僕達職員がやってるよ。自己紹介してもらおうね。じゃあまず、高田先生からお願いします。」

「はい、僕は高田明則って言います。歳は今年29になったばかりだよ。みんなからはあっきー先生って呼ばれてるよ」

「高田先生はこの家で1番上なんだよ」

高田先生は、とても落ち着いていて話し方はすごく安心させるようだった。
優しそうに見えるけど、ゆきと先生とは違う感じ。


「じゃあ次は田村先生にお願いします」

「はい、僕は田村智哉です。みんなからは智先生って呼ばれてるよ。歳は今年25になったよ。ゆきと先生と高田先生のちょうど真ん中だよ。」

「田村先生は僕の一個上だよ」

田村先生は穏やかな人。
そしてのんびりな人かな。

「じゃあ仁村先生、お願いします」

「僕は仁村結城です。歳は23だよ。よろしくね」

「相変わらず結城は固いな。緊張してるの?」

「してないよ!」

仁村先生は童顔で人懐っこい感じの先生。

「最後は、那波先生お願いします」

「こんにちは、私は安田那波です。今年21歳になるんだ。カウンセラーとしてはまだまだだけど、いろんなこと話してくれると嬉しいかな~」

那波先生は、優しいお姉さんみたいな人。

「これで自己紹介は終わりかな。あとは子供達だけだけど、帰ってきてからね。じゃあ悠李ちゃんのこと話してくれる?」

「あっはい、私は野口悠李です。小学二年生です。でも勉強嫌いです…」

「アハハ、勉強嫌いかぁ。でもここにいたらきっと好きになるよ。」
あっきー先生は笑いながらそんなことを言った。

勉強好きになることって…あるのかなぁ…


「よし、じゃあここの説明ね。ここは風の丘ホーム。表札あるから分かるけどね。この家にはいくつかお約束事があるんだけど、紙に書くね。」

やっぱりどこにでもあるんだ…
嫌だなぁ…

「悠李ちゃん、約束とか守るの苦手?」

「えっ?」

「顔に書いてある(笑)」

「まぁここにいたらきっと守れるようになるさ(笑)」

思い切り顔に出てたみたい…

「はい、これ。机の上のマットの下にでも入れとくとすぐ目に着くよ。ちなみに、難しい約束ではないから守れるよ。ただし、約束破ったときには僕達が許さないからね。」
満面の笑みでなんか恐ろしいことを言われた気がする。


約束事
1:夕食までに帰ってくること
2:嘘はつかない
3:自分のやったことからは絶対逃げないこと
4:自分や他のひとを大切にすること
5:約束事は守ること

「…これ、夕食って何時ですか?」

「平日は18時、土日祝日は17時30分だよ。この家では夕食はみんなで食べるようにしてるんだ。そうすることで色んな話しが出来るからね」


…これ全部守れる自信が無いんだけど…前いたところより少し緩いような…


「さてと、じゃあ次は反省室について説明しなきゃね。」

「反省室って…まだ良いんじゃないの?今話してもさぁ…」

「いやいや、結城、今話すことに意味があると思う」

「反省室については…僕が説明しても良いかな?」

「良いよ、誰がしても変わらないからね…」

「反省室は、悪いことしたり、約束事を守れなかったりしたら入る部屋。まぁ簡単に言うとね。悪いことしたり約束事守らなかったらここではお仕置き…お尻叩きをすることにしているんだ。悪いことと良いことの区別を付けるためにね。良いことをすればその分褒めるし、悪いことすれば叱ることにしてるよ。分かったかな?そのために反省室があるの。しっかり反省してもらうためにね。ちなみに職員で1番怒ったら恐いのはゆきと先生だから(笑)」

「ちょっと、智先生!」

「確かになぁ…みんなゆきとのまえでは素直だもんな」

「高田先生まで…」

「良いじゃないか。ゆきと、悠李を部屋まで案内してあげなよ。もう少しでみんな帰ってくるだろうし、悠李の紹介は夕食の時だね」

名前の呼び方が変わった。

でも、なんだかここでならちゃんと暮らせるかもしれない。

「じゃあ行こうか」

「はい」

「もう敬語じゃなくて良いよ(笑)」

「うん」