お尻のポケットに手を入れた時、まさしくそこに敵が入っていた。

 二つ折りになった小さな紙。

 要るものなのか要らないものなのか、紙を開くとそこには──


『ありがとう』


 お世辞にも丁寧とは言えないけど、確実に旦那のものと思われる字で、そう一言書いてあった。

 何に対してのありがとうだ。

 それくらい口で言ったらいいじゃない。

 そうは思っても、その紙を捨てる気にはなれず、取り敢えず自分が履いてるジーンズのポケットに収めた。

 ──と、同時に、目玉焼きタイマーが。

 慌ててキッチンに戻ると、旦那がシンクの前に立っていた。

「もう少しでごはんだから。ちょっと待ってて」

「うん。あのさ」

 忙しい朝に歯切れの悪い言い方。

 そんなところに立たれても邪魔なんだよね──とは言わないけど、言い掛けた話が気にならなくもない。

「夜、あけといて。ほら、結婚記念日だからさ」

「おお……」

 憶えていたんだ、という気持ちの方が強くて、変な返事になってしまった。