目が覚めたら、えらく殺風景な部屋に寝かされていた。
真っ白な壁に、薄いピンクのカーテン。窓からは陽の光が射し込んでいる。
殺風景、と判断したからには比較対象があったはずなのだが、自分がいつも寝てる部屋がどうにも思い出せない。

起き上がって自分の体に目をやると、知らない服を着ていて、腕からは点滴用のチューブが伸びている。
そうか、ここは病院か。
ようやく頭が働いてきたところで、自分がなぜ病院にいるのかを考える。

…。

……。

………………。

首を捻る。…まったく思い出せない。

とりあえず、人を呼んだ方がいいだろう。
そう思ってナースコールを探すと、部屋に誰かが入ってきた。目が合うと、相手はびっくりした様子で駆け寄ってくる。

「まゆちゃんっ、良かった、まゆちゃん…!!」

何度も名前を呼び、その人は私にしがみついて涙する。
まゆ…。そうだ、私はまゆ。そして今やってきたおばさんは…

「………?」

この人は…誰?

「まゆちゃん、心配したのよ。もう何日も目を覚まさなくって…。一生このままかと思うと、何て残酷なんだろうって。」

そう言うと、はっとしておばさんは私を抱きしめていた腕をゆるめる。私の瞳を不安げにのぞきこみ、何かを恐れているようだった。

「まゆちゃん…。おばさんね、まゆちゃんに伝えなきゃいけないことがあるの。落ち着いて聞いてくれる?」

おばさんは、視線を落として震える声で言った。

「達彦たち…あなたのお父さんとお母さんは、亡くなったの。あの事故で…」

両親が、死んだ?
衝撃的な言葉に、しばし呆然とする。
だが、すぐに不自然なことに気がついた。こんな時に両親の顔さえ浮かばない。

私は頭をフル稼働して必死に記憶を探る。だが、ダメだった。

両親の顔が思い出せない。

いや、それだけでなく目の前のおばさんも誰だか分からないし、自分がなぜ病院にいるのかも覚えていない。

「山本さん、どうしましたか?」

看護師が病室の異変に気づき、ベッドに近づいてきた。驚いた顔はすぐに笑みに変わる。

「山本さん、意識が戻ったんですね。おめでとうございます。念のため検査をしますから、ちょっと待っていてください。」

医師たちが私の異変を察知したのは、それから数十分後のことだった。