「世の中、いいことばかりじゃないのね」
そう呟いたのは、長くて黒い髪の女性。黒いコートを見に包み、サングラスをしていた。
コートのポケットに手を入れ、ポケットの中の黒い物体をぎゅっと握りしめた。
「やるしかないか」
とだけ呟いて、黒コートの女性は、歩き出した。

「これからどこ行くか」
「決めてなかったの?」
「え、うんまあ…」
ヤバイ、デートが楽しみで、どこ行くか何も考えてなかった。
こうゆう時、どうすればいいんだ。
近くて、安くて、楽しめるとこと言えば……。
「行きたい所があるんだけど、いい?」
「え……」
「この近くに、喫茶店があるんだ。行かない?」
そう言ってニッコリと笑う。
「いいよ」
情けない…。男がリードしなくてどうする。ホント俺ってばバカだ。もうそのうちフラれるかも。
「ここだよ」
たどり着いたのは、人のいない喫茶店…。
「なんか…誰もいなくね?」
「そう、みたいだね…」
一応中に入る。
「いらっしゃいませー」
やる気のない声がキッチンの奥から聞こえる。
えー、何ここ。これじゃあ人も来ないよな。
「なんか…ごめんね。変なとこに連れてきちゃって」
申し訳なさそうに言う彼女。
「いや、いいよ。せっかく入ったし、座ろうか」
「うん、そうだね」
入り口から近い席に座り、メニューを開いた。
「……なんで、コーヒーしかないの!?」
いや、そりゃないよ!俺コーヒー飲めないし!
仕方なくコーヒーを頼む。
「私コーヒー飲めない…」
「俺は…飲めるよ」
ここは強がっておこう。少しでもいいところを見せないと。
「お待たせしました。こちらコーヒーになります」
そっけなく言う、男の店員。
店長か?この人しかいないみたいだし。
取り敢えず、コーヒーを一口飲んでみる。
「にがっ!?」
あまりの苦さに、飲んだコーヒーを全部吐き出した。
「だ、大丈夫?」
「全然大丈夫…」
じゃない。苦すぎるよ、これ。大人はよくこんなの飲めるな。
「苦い…」 
彼女も苦そうに舌をペロッと出す。
可愛い、とつい思ってしまう。
「ところで、どうして僕なんかを?」
「え?」
ずっと気になっていたことを、ようやく口に出した。
「俺は、モテないんだよ?モテないんだ。だから、俺なんか彼女が出来るはずがない」
「そうね、確かに成瀬君はモテないね」
ハッキリと言われ、一気に落ち込む。
自分で言うのはいいが、他の人から言われるのは辛い。モテないのは事実だけど。
「運動もダメなんだっけ?」
さらに落ち込む。
うわぁ、ダメダメじゃん、俺。
「勉強も出来ないんだよね」
その通りです。どうせ、俺なんか…。
「でも、一緒にいて楽しいよ」
え?今なんて?空耳だろうか?
「え?え?え?」
「一緒にいて楽しいよ」
二回目!空耳じゃなかった!
ヤバイ、嬉しすぎて死ねるかも!
「あれ、でも話したことないよね?」
そう、俺と彼女は告白されるまで、一度も話したことない。
「あるよ?」
「え!?いつ!?」
「20年前」
生きてないよ!俺14だし!
「冗談♪10年前だよ」
え?てことは4歳の時?俺たち幼馴染みだっけ?
いや、そんなはずはない。
だって、4歳の時の俺ってば、友達もいなくて、ずっと公園の砂浜で遊んでたもん、一人で。
「隣の家だったよ?」
思い出した。あの子だったのか。
10年前、窓を開けて空を見ていたら、声がした。
「ねぇ、お空は好き?」
こんな俺に話しかけてくれたのは、同い年の女の子だった。
その子が彼女だと言うのか?
「思い出した?」
「あぁ、思い出した。でも、ホントに俺でいいのかよ?モテないんだぞ?」
「そんなの関係ないでしょ?」
そう言って微笑む。
生きてて良かったです!このまま死んでもいいくらい!ありがとう、神様!
そう舞い上がってると、後ろから店長(?)の悲鳴が聞こえた。
見ると、長い黒髪の女性が、店長に向けて銃を構えてる。
え?何この状況。全く理解出来ない。
何その物騒なの。それって拳銃だよね?なんで、持ってるの?
頭が困惑する、俺。
さあどうする、俺。俺に明日はあるのか、うん、あってほしい。
さっき、このまま死んでもいいくらい、って言ったけど、やっぱり死にたくない。
ウルトラマンでもいいからこの状況どうにかして。
そう祈る俺は、すっごく情けないのであった。