開けた瞬間。埃の匂いで、むせる。
「うわぁ、凄い埃っぽい」
「……頼む、何も出ないで…」
隣でクロは震えていた。
男のくせにみっともない。仕方ないなぁ。
クロをそっと持ち上げ、優しく抱っこする。
「……美玲?」
「全く、ここ出るまでこうしててあげるから」
「あぁ、ありがと…」
クロの顔が少し赤くなった。
「熱?顔が赤いよ」
「気にすんな!こっち見るな!てか、離せ!」
急に暴れるので、乱暴に床におろす。
たく、人が親切にしてあげたのに、なんなのこの猫。帰ったら説教ね。
「さて、クロのことを聞かせなさい」
「は?なにをだよ」
「なんでもいいの。とにかく、話なさい」
「あぁ。俺は黒山成瀬(くろやまなるせ)。お前と同じ中学3年生だった」
………え?
「人間だったの!?」
「そうだよ、ちなみに誕生日は3月15日」
「ちょ、ちょっと待って!なんで猫になったの!?」
「俺も知らねぇよ。気づいたら猫になってた」
へぇ、世の中には不思議なことがあるんだなぁ。
なんで猫だろう?
「ある日、好きな人に告白されて、次の日デートしたんだけど…」

デート当日、俺はドキドキしながら、待ち合わせ場所の公園のベンチに座っていた。
大丈夫だよな?変なとこないかな…。などと鏡を見ていると、
「どうしたの?鏡なんか見て」
彼女が俺の隣に座っていた。
「うぉ!?……び、びっくりした」
「一応呼んだんだけどね。熱心に鏡を見てたから、ナルシストかなぁ、ってずっと見てた」
「ナルシストじゃないよ!?確かに見てたけど!」
せっかく付き合えたのに、ここで台無しにするわけにはいかない、と必死に弁解する。
「分かってる。むしろ、自分はカッコよくないって思ってるでしょ?」
そりゃあ、そうでしょ。学校で、彼氏にしたくない人No.3だもん。ってどんだけだよ。俺ってどんだけモテないんだ…。
「って、今思ったけどやっぱりおかしいよ!」
「何が?」
「なんで、彼女にしたい女の子No.1の子が俺なんかと付き合ってんだよ!罰ゲームか!?」
いや、なんで今頃気がついたんだ。告白された時に気づくべきだろ。
彼女は、とても可愛い。それだけではなく、誰にでも優しくて、遠慮がちなところもあって、とても可愛い。
俺には勿体ない彼女なんだ。
うん、罰ゲームだね!有り得ないもん!あー、このデートが終わったらきっとフラれるんだ!さよなら、俺の青春!
「何言ってるの?ちゃんと黒山君のこと好きだよ?」
「え……」
いや、これは嘘だ。
そう言って期待させ、後でポイする気なんだ!分かってるよ!俺なんかが相手にされないって分かってた!
「……信じてないでしょ?」
「いや、信じてるよ」
「じゃあ、なんでこっち見ないの?」
「えっと…」
頼むから見ないでほしい。白い肌が…近く感じます。
彼女の方を見る。
あ、柔らかそうな唇…って何を考えてるんだ、俺は!
正気に戻れ!俺はモテないんだ!
「成瀬君」
「え…」
急に下の名前を呼ばれ、彼女の方に顔を向けてしまった。
俺の唇に柔らかい何かが重なる。
「これで信じる?」
「はい……」
うん、気のせいだね。今のは気のせいだ。気のせいにしないと俺がヤバイ。
嬉しすぎて死ぬ。これの場合死因は何になるんだろうか。
嬉死?

ともかく、デートを再開した。
この先起こる出来事を二人は知らない。