家に帰ると、靴を脱いでお風呂に向かう。
「ちょっ、いきなりお風呂!?」
「そうだよ?臭いし」
「……お手柔らかに」
「たっぷり洗ってあげるね」
「人の話聞いてた!?」
人じゃないけどね、猫だし。猫の話聞いてた、の方が正しいね。そんな日本語ないけど。
「美玲、帰ったの?」
ママの声がする。
名前は祥子(しょうこ)、専業主婦。怒ると怖い。普段は……優しい。うん、優しいよ。すっごく優しい。
「あら、その猫は?」
「拾ったの。いいでしょ?」
「可愛いわねぇ、名前はつけたの?」
「クロって言うの。ね、クロ」
「………」
クロは喋らず、黙ってママを見つめていた。
「クロ?」
「美玲どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
そうか、他の人には知られたくないんだ。
普通猫は喋らないしね。
知られたら、マスコミとかが来そう。でも、それも面白そうだな。
お風呂場へと連れていき、袖をまくる。
シャワーでクロの体を洗い流す。
「嫌だぁ!助けて死んじゃう!」
そんな大袈裟な……。
猫ってなんでお風呂が嫌いなんだろう。

クロの体を洗い、ドライヤーで乾かす。
「もうやだ、死ぬ……」
「なんで、お風呂嫌いなの?」
「いいか、猫は熱帯の砂漠出身なんだ!被毛が体にべったりついて、それはもう惨めで哀れな姿なんだぞ!」
「うん、よく分かった」
なに言ってるのか全然分からない。取り敢えずスルーしよう。
綺麗になったクロが、部屋を歩き回る。
「ここが今日からクロの家だよ。気に入った?」
クロは喋る代わりに頷いた。
目と目で話せればいいんだけどなぁ。さすがに無理か。
「おいで、クロ」
と言って、私の部屋に案内する。
「ここが私の部屋ね」
「おぉ、広いな」
誰もいないので、やっと喋った。
「シンプルで女の子っぽくないけどね」
部屋は机とベットとタンスと本棚だけしか置かれてない。
「俺の寝るとこは?」
「私と一緒よ?」
「いやいやいやいや、無理!」
全力で首をふる、クロ。
「嫌なの?」
「嫌じゃないけどさ!でも…」
「嫌じゃないなら、一緒に寝るの!」
「…はぁい」
「宜しい!」
こうして、クロを家族として認めてもらい、刺激的な毎日が幕を上げる。