猫ちゃんが必死に顔をそらす。
「こっち見て。見ないと、皆に言いふらすよ」
と言うと、きちんとこっちを見て、
「それはやめて」
と喋った。
「質問その1、喋れるんだよね?イエスかノーで答えて」
「イエス」
「質問その2、なんで喋れるの?イエスかノーで答えて」
「それ無理じゃね!?」
とツッコミしてから、「俺にも分かんねぇよ」と答えた。
分からないんだ。自分のことなのに。ダサっ。
「なんか悪口を言われてるような…」
「質問その3、迷子?イエスかノーで答えて」
「ノー」
じゃあ、野良猫か。うん、飼ってあげようかな。可愛いし(態度はムカつくけど)、黒猫は飼ってあげると、逆に幸運になれるって誰かが言ってたし。
「……んっ!?いい匂いがする!」
「あ、これ?」
と言って、袋を鞄から取り出す。
給食が多すぎたので、お持ち帰りすることにしたのだ。
「くれ!」
と言って飛びかかる猫ちゃん。
それを避けて、袋を指で揺らす。
「これが欲しいの?」
「2日も食べてないんだ!」
「ふーん。じゃあ、私の猫になりなさい」
「は?なんでだよ」
「じゃ、あげない」
「なるなる、なります!私は貴女様の猫です!」
と言って、必死にどけ座しながら言う。
お腹空いたんだね。可哀想に。野良猫は辛いね、ホント。
「じゃ、はいどうぞ」
と言って、袋を逆さにする。
パンしかないけど。
「少なくね?」
「ワガママ言うならあげ…」
「うん、これで十分です!」
この子の名前どうしようかな。
黒?いや、ひらがなにして、くろ?カタカナでクロ?うん、クロでいいや。
「ねぇ、クロ」
「いつから、クロになったんだ?俺」
「それ早く食べちゃって。早く帰りたいから」
「あ、あぁ…」
数分後、クロがパンを残さず食べたので、さっそく帰ろうとする、が。
「じゃあな!」
とだけ言って、走って行ってしまった。
美玲は、クロを追いもせず、うつむいて手で顔を覆った。
「うぅっ……ひっく……」
クロがこちらを振り返り、泣いてる美玲を見て、足を止めた。
「美玲……?」
クロは、ゆっくりと美玲に近づき、そして、急に顔を上げたと思うと、ガシッと掴まれた。
「しまった!」
「捕まえた!」
クロをぎゅっと抱きしめ、逃げないようにする。
「うぅっ……」
「あれ、嬉しくて泣いてるの?よしよし、可愛がってあげるからね」
幸い、ママは猫好き。パパはどうか分からないけど、多分大丈夫だろう。
「帰ったら、ご飯買いに行こうね」
「ホント!?やったー!」
子供のように無邪気に喜ぶクロ。
なんだかんだ言って、楽しそうだ。
「臭い………。帰ったら洗わなくちゃ」
「やめて!お願いそれだけは嫌だ!」
「問答無用!」
こうして、クロが新たな家族となった