念のため、後ろを振り返る。
そこには、私と同じで黒くて長い髪。モデルのような体型のママがいた(一応褒めておく)。
ゆっくりと前を向き、額に汗を浮かべる。
やばい、この状況をどうにかしないと。
「聞いてるの?」
「も、勿論ちゃんと聞いてたよ!」
顔は笑ってるが、心は焦ってる。
「じゃあ、質問に答えてもらいましょうか?」
「えっとですね~…、家に帰ろうと…」
「どうして、家に帰るの?」
「お腹がちょっと、いやかなり痛くて…」
「元気そうだけど?」
うん、元気だよ。それはもう、ご飯をおかわり出来ちゃうくらい。
なんとかしなくちゃ、怒られる。どうしよう…。
頭に選択肢が浮かぶ。

1:全力で言い訳
2:全力で言い訳
3:全力で言い訳

いやいやいやいや、選択肢の意味がない!
結局言い訳じゃん!
うん、神様が言い訳しろ、って言ってるんだね。
きっとそうだ。そうに違いない。
「あのね!この世の中にはお腹痛くても顔に出にくい人がいるの!」
必死に言い訳を思い付きながら話す。
「へぇ、それで?」
「だから、元気そうに見えて実はお腹痛いんだよ!」
と、言った瞬間。
ママの顔に笑顔が……うん、笑ってない!笑ってるけど、怒ってるね!
「痛くても学校行けるわよね?」
「えっと……」
「行ける、わよね?」
「はい、行けます!」
ママ怖いです。逆らえない。逆らったら、私の命が危ない。

仮病が使えない今、1の素直に謝って許しを乞う、しか方法がない。
それか、言い訳…やめておこう。言い訳をするの向いてない気がする。
学校の門の前で、必死になんて言って謝るか考える。

「申し訳ありませんでした!」
教室に入った瞬間、床に手をついて必死に頭をさげる。
「ど、どうしたんだ?」
急な出来事に、困惑する先生。
「宿題を忘れてしまいました!」
と言ってさらに頭をさげる。
「なんだって?馬鹿やろう!」
と怒鳴られると共に、先生の拳が飛んでくる。
「あうっ!」
床に倒れる私。

いや、生徒に暴力ふるっちゃダメでしょ。「あうっ!」ってなんだよ、私。
仕方ない、言い訳するか。
その前に突っ立ってる場合じゃなかった。早く教室へ向かわないと。遅刻で怒られる。
仕方なく、教室へと向かう。教室の前で立ち止まる。
何回か深呼吸したあと、勢いよく教室のドアを開ける。
皆がこっちを見る。皆の視線を気にせず、先生の前で止まる。
「ギリギリ遅刻セーフだな。ところで、宿題は?」
きた!
「それがですね、ここに来る前、犬に出会いまして…」
「……それで?」
「ノートを食べられてしまいまして…」
「ほほう。それは災難だったな」
「そうなんですよぉ」
良かった、怒られないみたい。
「放課後職員室に来てもらうからな」
あ、怒られるみたい。