「そんな道具は無いよ。……今だから言えるけど、グローブは兄さん達が柔道部室から柔道着をカッパラって、それを手に巻いてグローブ換わりにしてたんだ」

 白鳥は苦笑しながら話を続けた。

「それでスパーリングが始まったんだけど、兄さん達はそっちに嵌まっちゃって、俺も毎日付き合わされたんだ。……あ、けどスパーリングって言うより、ボクシングごっこみたいなもんだよ。遊び半分でやってたから経験者って言えないんだけどな。今日のスパーリングでも、俺だけ二回もカウント数えられたしさ」


「……でも、白鳥はスパーリングで一番打ち合ってたし、ビビっていた俺達よりは勇敢だったよな」

 康平をチラッと見た有馬は言ったが、少し悔しげな表情だった。




 駅に着き、有馬達と別れた康平と健太は下りの電車に乗った。

 部活帰りの高校生達が多いせいか、座る場所は無く、二人はドアの側に寄り掛かる。


「そう言えば健太、昨日は綾香も図書館へ来たんだけど、何で来れなかったんだよ」