臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)

「……覚えが悪くて驚いたんか?」

「ち、違うんです先輩! 先輩はインターハイ予選は準決勝、国体予選では決勝まで残ったんですよね」

「あぁ、そういう事か」

 健太の話に相沢の怪訝な表情は消えた。


「避け勘の悪い相沢だが、試合のDVDで研究してる分、攻撃のパターンは二年で一番多いぞ。だから県大会でも勝ち残れたんだ。練習時間も一番長いからな」

 梅田先生の口許はほころんでいたが、すぐに歪みへと変わった。

「だがな、少しはその分勉強へ時間を回せ。数学は特にだぞ」

「相沢は、数学が連続して赤点だったからな。追試や補修授業をする梅田先生の身になってみろ。テストが終わった少し後に大会があるから、結構忙しいんだぞ」


 飯島に言われて、相沢は頭を掻いた。

「すんません。……ただ、今は返し技の左フックをヒントに、コンビネーションを改良中なんですよね」