臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)

「大崎、俺の武器を一年にバラすんじゃねぇよ。これからスパー相手になるんだからさ」

 冗談まじりに言い返す相沢へ、今度は森谷が笑いながら突っ込む。

「セコいなぁ、そんなにしてまで一年に負けたくないのかよ。……高田と片桐は相沢とスパーする時、打ち終わりに左フックだけ気を付ければいいぞ」

 康平と健太は相沢と体重が近い。二人は戸惑いながら笑った。


「その試合だけ見れば、左フックの返し技だけで戦った世界チャンピオンは何人かいるんだよ」

 相沢が森谷に言った後、飯島が一年生達へ説明した。

「相沢はボクシングオタクだからなぁ。試合のDVDの数は半端ないぞ」


「ちょっと待って下さい!」

 全員の視線が健太に集中する。

「相沢先輩は、最近返し技が打てるようになったんですよね。……という事はですよ。インターハイや国体予選の時は、返し技無しで戦ってたんですか?」