臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)

 彼はリターンジャブを狙っていたらしく、左ジャブを出し掛かっていた。


 梅田が二十センチ程前進して距離を詰めた。

 有馬は、詰められただけの距離を下がる。

 梅田のプレッシャーを感じたのか、彼は左へ回りだした。


 梅田がまたピクッとフェイントを入れた。

 有馬が再び右グローブを上げてディフェンスの体勢に入る。

 迎え撃とうとした有馬の足が一瞬止まった時、梅田がスーっと距離を詰め、右のパンチをいきなり放つ。

 オーバーハンドライトと呼ばれ、ストレートとフックの中間のようなパンチだ。有馬の顔面へ当たる直前に止められたが、少し山なりの軌道の為、寸止めでなければ有馬の肩越しから顎へ直撃していた。


 仕切り直そうと有馬が左へ回る。

 追う梅田の右の肩と腕が少し動く。