臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)

 打ち終わった健太に、森谷が左へ回りながら二発の左ジャブを放つ。山なりで外側からのジャブだ。

 健太は前に出していた右グローブを、ガッチリ頭部に付けてブロックをする。

 再び構え直そうと、右グローブを前に出した健太の顔に、森谷のジャブが内側からヒットした。

 内側から打つ為に肩を入れた左は威力があり、健太の顔が上向きになる。

 そのせいか、健太はズルズルと後退した。


「ストーップ!」

 梅田の声でスパーリングは中断した。彼は続けて森谷に言った。

「森谷! 技は試すだけでいいんだ。お前やり過ぎなんだよ」

「え、ジャブも軽く打つんですか?」

「お前は片桐よりずっと重いんだからな。もっと手加減しろ」


 森谷はウェルター級(六十九キロ以下)の選手で、普段は体重が七十一キロあった。健太より丁度十キロ重い。