臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)

 再び白鳥の右脇腹にヒットすると、彼の膝がガクンと曲がって腰が大きく落ちる。

 大崎は白鳥がダウンすると思い、小さくバックステップをした。

 白鳥は踏ん張り、屈んだ姿勢から前へ伸び上がりながら左フックを打った。だが僅かに届かず空を切り、バランスを崩した彼は両グローブをマットに付けていた。


「ストーップ! スリップダウンだ。白鳥、立てるか?」

「は、はい」

 飯島に訊かれた白鳥は、苦しそうな声ながら即座に答えた。

 スリップダウンは、相手のパンチを原因としないで倒れた時に宣告される。試合の時は、倒れた者が立ち上がれば、自分のシャツでグローブを拭いてすぐに続行となる。


 すぐに立とうとする白鳥を横目に、飯島が大崎に言った。

「大崎、途中で気を抜くんじゃないぞ! 今の白鳥の左フックは食らったら危なかったからな」


 話が終わった時に終了のブザーが鳴った。