臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)

 康平が言い終わった時、彼は苦痛の表情になっていた。戻ってきた弥生が、康平の背中に肘打ちをしていたのだ。

「私がいない時に、何悪口言ってんのよ!」

「いってぇなぁ。……悪口を言ったのは謝るけど、お前の教科書を借りようか悩んでたんだよ」

「私の教科書?」

「お前、今度は付箋紙が付いた別の頁を訊くつもりだったんだろ? だから綾香は、弥生がいない時に準備しようとしてたんだよ」


 康平に言われて弥生は少し考えていたが、彼女はロビーへ視線を向けた。

「ねぇ、ちょっと休憩しない?」

「まだ勉強始めてから一時間も経ってないぜ」

「うるさいわね! 綾香さんに相談したい事があるのよ」

「私に相談?」

「えぇ、綾香さんに教えて欲しいんですよ。……康平ちゃんも来て! ジュース飲みたいからさ」

「お前飲み過ぎだろ? そんなに飲んだら……いや、何でもねぇよ」

 弥生から睨まれ、康平は話を中断した。高感度の地雷を踏みそうになったからだ。