臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)

 康平が家に着くと電話が鳴っていた。妹の真緒が急いで受話器を取る。

「もしもし、……あっ! お久し振りです」

 真緒の声がやけに大きい。電話であるにもかかわらず二回程頭を下げた。


「今帰ったとこなんで、ちょっと待ってて下さいね」

 康平と目があった真緒は「……弥生さんだよ」と、小声で言って受話器を渡した。


【康平ちゃん、入部の件は先生に訊いてくれた?】

【あぁ、入部は出来るって言ってたぜ】

【よしよし、忘れてなかったんだね。もし忘れてたらボコるつもりだったんだ。アハハ】

【わ、忘れる訳ねぇだろ。……弥生がボコるって言うと、冗談に聞こえないんだよな】

【あらー、私は本気よ。最近は受験勉強で空手の練習も控えてるし、誰も叩いていないからストレス溜まってんだよね】

 康平から冷や汗が滴り落ちる。